虹色世界の流離譚
□Stage 4
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「星の光が、さえぎられている?」
弦稀は、イレウスが言ったままを反芻し、眉根をよせた。不審そうな少年へ、老人はゆっくりとうなずく。
「星がそこに存在するのはわかります。はっきりと感じ取れるのです。しかし、その光が見えないのです。これは、私の力が衰えたのか、あるいは……」
「あいつの身に、もう何か起きているかもしれない、ってことですか」
老人の無言が、答えだった。
弦稀はいきおいよく立ちあがり、出口へと体を向けた。しかし何度か床を踏んで、結局腰を落とす。強く握った拳を額にあて、いらただしげに息を吐いた。
「何がそこまで、ツルギ様を不安にかきたてるのですか?」
困惑よりは疑問を多く混ぜた問いに、弦稀はため息をつく。
「……あいつは、自分が石を持っていて、他人とは違うという事実を、異常なほどにに怖がってました。それが気になって仕方がなくて」
「ふむ、そうおっしゃいますが、石の存在を受け入れがたいのは、ツキコ様も同じでは?」
弦稀は、彼女との初対面の時を脳裏に思い浮かべる。わざと値踏みするように眺めていた自分へ、怯みながらも睨みつけてきた、あの姿を。
「風賀美は気が強い分、放っておいてもある程度は平気だと思います。でも、真守の奴は……」
うなだれたまま、弦稀はこぶしを強く握った。
「あいつは俺と初めて出会ったとき、驚いて攻撃してきたんです。石を見せても、俺が力を使ってみせても、一緒の境遇にある仲間だと、受け入れてはくれなかった。あいつは、ただ脅えて恐れていた。自分が疎んでいる部分へは、たとえ誰であろうとふれてほしくなかったんです」
イレウスが、考え込むように瞼を閉じる。
「俺は、真守の気持ちに気づいてやれなかった。そのせいであいつを、怖がらせてしまった。だからもう、あいつを傷つけるようなことはしたくない。あいつを一人に、したくないんです」
やりきれない、という風に、弦稀は拳で床を殴った。
「真守に孤独を捨てさせたのは、俺だ。だから、俺はあいつを一人にしちゃいけないんだ!」