虹色世界の流離譚
□Stage 3
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石、という単語に、月子の肩が跳ねる。
自分を苦しめた根源。それでいて、身につけていないと不安で不安でたまらなかったもの。
「で、理解できたか?」
「うーん、あんたの話は分かりやすかったけど、どうしてこんな状況になってるのか、全然理解できないわ」
と、青年がさらに進みでて口を開く。
「今日はお疲れでしょうから、このままお休みください。今、軽食をお持ちします。詳しい説明はまた明日、僕の祖父が行います」
それと、ともう一つ青年は付け加えた。
「僕は、〈シュビレ〉のリオと申します。あなた様の名前を、お伺いしてもよろしいでしょうか?」
「えっと、風賀美月子……です」
ぎこちなく返すと、青年は深くうなずいた。
「ありがとうございます。では、ツキコ様にツルギ様、今日はこのままお休みください。何か御用があれば、何なりとお申し付けください。それでは、おやすみなさいませ」
丁寧に述べ、リオは辞去した。少しの沈黙の後、月子は思い切って口を開く。
「あんたって、下の名前、ツルギっていうの?」
「麻倉弦稀、だ。それが俺の名前だ」
このやりとりが、何だか奇妙だった。
見知らぬ世界に放り込まれ、ここにたどり着くまでに、命を助けたり助けられたりした仲なのに、今まで相手の名前も知らなかったのだ。
「あ、でもよく考えたら、遠城寺君があんたのこと、弦稀って呼んでたっけ、確か」
あれは、屋上で弦稀に石を見せるよう強要された時だ。その場面を思い出し、月子は顔をしかめる。
「俺も今思い出したけど、真守の奴、お前のこと風賀美って呼んでたな。聞いていたはずなのに、どうして思い出せなかったのか……」
そこで、弦稀の言葉が途切れた。その顔が、少し動揺に染まる。月子も彼と同じことに思い当った。
「あ、あのさあ……」
二人は、同時に口を開く。
「遠城寺君は、今どこにいるの?」
「真守は、どこにいるんだ?」
少女と少年の胸中を、黒い不安が占拠していく。
沈黙に耐えきれず、月子は急かされたように口を開いた。
「私、眠っている間、悪夢を見たんだ」
「悪夢?」
怪訝そうな声を出しながらも、こちらへ身を乗り出す弦稀の瞳が、真剣な色を帯びていく。
「うん。私が教室に一人きりでいるところにあんたが現れるんだけど、あんたは私に気がつかないで、遠城寺君のことを探しているの。でも、遠城寺君は教室にいなくて、あんたは帰ろうとした。だけど、そのとき、突然遠城寺君が現れて、あんたの名前を必死に呼んでた『待ってくれ、弦稀!』って……でも、あんたは気がつかなかった」