虹色世界の流離譚

□Stage 3
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「『やっと見つけた』とか『探してた』とか、訳のわからないことほざく奴についていって、着換えたとたんに眠ってしまっただろ。覚えてないのか?」

「うーん、そういえば、そんな気もする」

確か、自分たちよりも少し年上の青年に、共についてきて欲しいと熱心に説き伏せられたのだ。

もちろん月子と弦稀は疑心暗鬼の固まりだったので、最初は敵意むき出しだった。が、弦稀が月子の足の手当てをしようとする青年を見て、心を決めたのだ。

『お前を信用しても、大丈夫なんだな?』

油断なく、剣を取り出しながらするどく尋ねる弦稀に向かって、青年はうなずいた。

月子は、その青年の真摯な瞳の色で、彼を信じようと思ったのだ。

「思い出したのなら、いい。少しここで待ってろ。人を呼んで来るから」

弦稀は立ち上がると、入口に下げられた布を上げて、外へ出ていった。月子が一人きりになったのはほんの少しの間だけで、弦稀はすぐに戻ってきた。

一緒に現れたのは、あの青年だった。

「よかった。お目覚めでしたか」

いきなり敬語で話し始め、しかも膝まづいたものだから、月子の方が仰天してしまう。

「や、やめて。どうしてそんなことするんですか?」

ベットから這い出して青年へ歩み寄ろうとし、足首の違和感が消えていることに気がついた。痛みが、嘘のようにひいている。

捻挫がこんなにも早く回復するなど、ありえるのだろうか。

青年は月子の困惑など知る由もなく、笑んだ。

「何をおっしゃいますか。あなたがた二人は、やっと見つかった失われた星なのです。行方不明となった〈イリスの落とし子〉が、この時期になって二人も現れるとは、まさに奇跡としかいいようがありません」

なめならな口上を咀嚼し、少し思案してから、月子は弦稀へ助けを求めた。

「……今、この人が言ったことの意味、解説してくれない?」

「なかなか無茶な注文つけるんだな、お前」

弦稀自身も、はあとため息をつき後頭部をかきむしる。どうやら彼は、月子が目覚める前、散々こういう話を聞かされたようだ。

「こいつが言っている意味は、こうだ。俺たちが本来生まれるはずだった世界はここで、俺たちは〈イリス神〉に守護された七つの部族のうち、〈風〉と〈鋼〉をつかさどる一族の〈イリスの落とし子〉だとさ」

弦稀の説明を必死で頭に叩き込み、月子はもう一つ質問する。

「……〈イリスの落とし子〉って、何?」

「その一族の中で一番力が強い奴のことらしい。基本、その時代に一人しか生まれず、力の継承は石に依る、とかなんとか」
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