頂き物
□奏様から
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せめて、今だけは
「散歩に行かないか、幾松殿」
「へ?」
もうすぐ日が代わるという時刻。
唐突に、その人は私を散歩に誘った。
「アンタ……真選組に追われてるんだろ?散歩なんかしていいのかい?」
呆れ顔でそう問えば、彼はむっと唇を尖らせた。
普通の男がやったら違和感、というかもしかしたらゾッとするかもしれない。
でもこの人がやると、なぜか絵になってしまうからムカつくんだこれが。
「追われてるんじゃない、追われてたんだ。大丈夫、もう2時間は経ったから」
2時間前。
店を閉めた後、何故か急に寂しくなって、1人でため息をついた。
よくある事だった。
なんのきっかけも前触れもなく、きゅっと心臓が握り潰されるように、寂しく、切なくなる。
どうしようもないから、そんな気持ちのまま床につき、朝を迎える。
次の日にはまた、同じように店を開けなければならないから。
だけど今日は……
『すまないが匿ってはくれぬか、幾松殿。お詫びに蕎麦なら喜んでご馳走になろう』
とか言いながら転がり込んで来たコイツを、とりあえずグーで殴っておいた。
でもなんだかんだ言ってちゃんと匿ってあげたのは、ただ傍にいて欲しかったから。
この人はいつもそうだ。
誰かに傍にいて欲しいと、会いたいと思うちょうどそのときに、毎度毎度真選組に追いかけ回されてうちへくる。
エスパーか、エスパーなのか?
本気で思った事もあった。
でも今はもうどうだっていい。
寂しいときは、この人が傍にいるから。
馬鹿な事を呟きながら蕎麦をすする彼をみていると、心が少しだけ満たされるから。
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