短き夢幻

□腰
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「新八君は足でリーダーは上半身だな。」
「………は?」
突然家に上がり込んで突然変な事を言い出す幼馴染み。
紅桜の一件で負った傷がやっと完治した銀時は、またその一件で髪が短くなった桂を訝しげに見た。
因に、さっき言った新八やリーダーこと神楽は今万事屋には居ない。
「何言ってんのお前…アレか?ヅラの下にあるアンテナがポッキリ逝ったか?」
「ヅラじゃない桂だ。そしてアンテナなど持っておらん。いや何、お前や俺達を身体(からだ)で例えたら新八君が足でリーダーが上半身だなと。後、坂本が口だ。」
「ワケわかんねぇよ。」
やっぱこいつパーだわ。
「そして、お前が腰だ。」
銀時はまた訝しげに桂を見た。
「何で腰?」
すると桂は腕組みをしながら言った。
「腰は身体の要なのだ。腰が機能しなくなれば歩くことは愚か起き上がる事さえ出来ぬ。」
「それと俺がどう関係あるわけ?」
もう呆れ果てた銀時はテーブルに置いてあったいちご牛乳をらっぱ飲みする。
桂は一度腕組みを解き、真剣な面差しになった。
「お前が機能しなくなった場合、リーダーや新八君も機能することを放棄してしまうだろう…」
『機能』とはまるで機械の様な言い方だ。
しかしその言葉に、いちご牛乳をらっぱ飲みしていた銀時の手が止まった。
そしてこちらも表情に少しだけ影を落とす。

「足である新八君は歩く事を辞め、上半身であるリーダーは起き上がる事さえ出来なくなる。それだけじゃない。口も痛みや弱音を吐くしか出来なくなる。」
「………」
言いたい事が今一掴めない。
「さっきから何が言いたいの?はっきり言ってくれないと銀さん解んねぇよ?」
「銀時」
幼馴染みの厳かな声が静に響く。
真っ直ぐに見つめ返すと、桂は先程よりも真剣な眼差しで言葉を紡いだ。
「お前は折れてくれるなよ?リーダーや新八君、お前に関わる者達、なによりお前自身の為に。」
やっぱりコイツは馬鹿だ。
それも、かなり超の付く馬鹿らしい。
「なーに言ってんだよヅラ君。俺がそんな直ぐにくたばるような柔だと思ってんの?」
「ヅラじゃない桂だ。別に思ってなどいない。だがな、今回の紅桜の一件で、リーダーや新八君の心に深い傷が出来たのには違いない。いくらお前がバケモノ並みだと言ってもいつ命を落とすかは解らん。」
だから今のうちから危なっかしい事は控えとけ。
何か説教みたくなってねぇか?
そう思い始めた銀時はふとある疑問を胸に抱いた。
「そーいやぁよぉ新八が足で神楽が上半身、辰馬の馬鹿が口なら、オメェは何だ?」
すると桂は軽く驚くそぶりを見せたが、ふっと笑みを見せた。
「そうさな、俺は両腕と言ったところか」
「腕?」
ああ、と、桂は首を縦に振る。
「いつぞやに言った事があるだろう?お前の左腕になろうと。」
ああ、言ってたな。
春雨ん時に。
「例え腰が機能しなくなり足が動くまいと、上半身が上がるまいと、両の腕で地を這い、片腕になろうともその肉体を引き摺ってやろう。」
そして弱音を吐く口を叱咤し、前向きな言霊を紡がせよう。
銀時はぽかんとしていたが、軈て口角を吊り上げた。
「なら、あいつらの将来も心配ねぇってことだな。」
殊更おどけて言うと、生真面目な返答があった。
「だがそれはもしもの場合だ。俺は極力そんな労働は御免被る。」
「へいへい、じゃあ腰は長持ちするように、カルシウムと糖分しっかり摂るとしますわ。」
「寝言は寝て言え戯け者。」

暫くすると神楽達が戻り、その二人を見た銀時はその場で二人の頭をわしゃわしゃと撫で回した。


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