短き夢幻

□もう少しだけ
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「ぼたん、いつまで俺の髪を弄ってるんですか?」
夏真っ盛り。
ベッドに凭れて読書をしていた蔵馬の髪をベッドに寝転びながら弄るぼたん。
「も〜少しだけ」
さっきから何度もこの言葉を繰り返している。
蔵馬はふぅとため息を吐き、ベッドの上に居るであろう恋人を見上げる。
にこにこと機嫌良く髪を束ねたり指にくるくる巻き付けたりして実に楽しそうだ。
「全く…何がそんなに楽しいんだか」
苦笑しながら読みかけの本を起き、ベッドに座る。
じっと見上げて自分を見てくるぼたんがとても愛らしい。
その時、ぼたんの首許に光物が見えた。
「あ…まだ付けてるんですか?季節外れも良い所ですよ。」
首許に光る物を掌に置き、苦笑しながらそれを見つめる。
薄い桃色が静かに自分を主張するかの様に煌めく桜のシルバーアクセサリー。
この春、自分がぼたんにプレゼントした物だ。
「ふふふ〜ん、も〜すこしだけぇ〜」
これまたにこやかに返すぼたん。
流石俺の彼女。
…なんて思っている俺は本当にのろけているのだと自覚してしまう。
ぼたんの薄い空色の髪を優しく撫でてやると、まるで猫の様に戯れてくる。
そんな姿がまた愛しい。
「蔵馬」
自分にしか見せない甘えた声とはにかんだ顔。
「ん?」
こうやって自分をさらけだしてくれるのが嬉しくて…
だから自分もぼたんにしか見せない最高の笑顔を見せる。
ぼたんは蔵馬の首の後ろに手を回し、そのままむぎゅ〜っと抱きつく。
「くす…今日は甘えん坊さんですね。」

そりゃ蔵馬にだから甘えるんだよ。
蔵馬だからこそ甘え甲斐があるんだよ。
ほら、また優しく頭撫でてくれるだろ?
あたしゃそんなあんたが堪らなく好きなんだ。


だからさ…


『もう少しだけ』このままでいさしておくれよ?

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