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□【想い】
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海水が押し寄せてくる音が聞こえた。
レバーから手を放し、壁に凭れながら、ゆっくりとその場に座る。
耳を澄ませば、まだあいつの自分を呼ぶ声が聞こえる気がした。そんな自分に、自然と自嘲的な笑みが零れる。
『坊っちゃん…』
腰にかかっているシャルティエが、心配そうに話しかける。リオンはシャルティエを抜き、目の前にかざした。
「すまないな、シャル。付き合わせてしまって。」
「気にしないでください。僕は坊っちゃんが一緒ならどこへだってお供しますよ。僕のマスターは坊っちゃんですから。」
「…シャル。」
シャルティエの言葉にリオンは微笑を浮かべる。10年前、ヒューゴに手渡されたあの日から、ずっと共に過ごしてきた。時には喧嘩をしたりもしたけれど、ずっと一緒に戦ってきたのだ。
「…ありがとう。」
『お礼を言うなんて、坊っちゃんらしくないですよ。』
シャルティエが苦笑じみた声で返す。その反応にリオンはフッ、と笑みを零した。
「そうだな。まったく…僕らしくない。」
そう言い、リオンは天井を仰ぎ見る。今頃は飛行竜の所に着いただろうか。非常用とは言え、廃棄された工場のものだ。この状況では無事にたどり着く可能性も低い。
『大丈夫ですよ。きっと無事です。だって坊っちゃんが助けたんですから。』
リオンの心の中を読んだかのようにシャルティエは言う。リオンもその言葉を信じ、頷く。
海水はリオンの足を濡らしていた。リオンは静かに眼を閉じる。
思い出すのは、旅をしてきた彼らのこと。特に実の姉であるルーティとは喧嘩ばかりしていた。
「…ルーティには悪い事をしたかもしれないな。」
最後に自分と血が繋がっているなど知りたくもなかっただろう。ルーティのあの表情が物語っていた。これから彼女は父であるヒューゴとも戦わなくてはならない。それはきっと辛い。
だけど大丈夫。彼女には仲間がいる。それに、眩しいくらいの金髪の青年。彼ならルーティを支えられる。あれだけ大嫌いと言っていた自分にすら、彼は優しかった。それにどれだけ救われたか。彼なら…彼らなら、ヒューゴの野望も阻止できる。
「頼んだぞ…スタン、ルーティ、みんな…」
そしてリオンは、押し寄せてくる波に呑まれながら、意識を手放した。
※Fin※
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