立海

□反省してたりなかったり
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『窓、閉めるね。』



今日も風がカーテンを揺らし、部屋を換気してくれる。でもあまり開けとくと、この時期は網戸が無いので部屋が蚊だらけになる。だから学校から帰ったらすぐに窓を閉めるのが俺の日課。俺は蚊が来るし窓を開けとくのが嫌いだ。でも彼は蚊にくわれない体質らしく、暑いのが駄目なので日が出てる間は窓を開けないと怒ってしまうから開けてるのだ。




『ねぇ、におー。あのね…』

“…どうしたんじゃ?”

『今日は部活サボっちゃったんだ…まあ今日も、だけど。』

“…そうなのか”

『でも真田も幸村クンも誰も俺を怒らないの、変だろい?』

“…へー”



ふふっと笑うと彼もまた笑い返してくれる。
彼はとっても優しい。俺がどんなことをしても笑ってくれる。みんなに自慢できるいい彼氏なんだ。悪いことしてもなにも言わないし、良いことしたらいっぱいいっぱい褒めてくれる。



『最近みんな調子悪いのかな?…におーはどう思う?』

“…明日は…ザザッ……どっ…ザーーー”



急に壊れたラジオがみたいな機械音が仁王から溢れ出す。揺さぶっても反応はなく、まるで死んでいるようだ。



『ねぇ、仁王。どうしたの?
笑ってないで答えてよ。』


いくら揺さぶっても彼は静かなままで、俺はさらに強く揺さぶる。その瞬間、ゴトンと音がして仁王の首が勢いよく地面に落ちた。



『あ…ごめん…大丈夫?』

“ザーーーーッ………”



仁王に近づくと足元でバキッという音がした。見てみると液晶が割れたケータイがあり、それと同時にさっきから聞こえていた音も止む。
仁王の首は窓の方に転がっていき、壁でとまった。首を拾い上げるとやはり笑ったまま反応が無い。



『…におー、におー、愛してるよ。俺の大好きな声を聞かして。』



頬を抓っても眼球を触っても口に手を突っ込んでもやはり反応がない。
声が聞きたい。仁王の…機械じゃない生の声。


『…ごめんね、におー。』


もう彼の声は聞けない。でも聞きたい。
聞けなくしたのは自分。


『…ごめんなさい。』


俺の瞳から零れた涙は仁王に一筋の線を何本も引いた。




























プルルルル…









プルルルル…







『あ、もしもし。携帯会社の方ですか?
すみません、また壊れてしまって…この時間でもまだ店開いてますか?…あ、そうですか。ありがとうございます。』



ピッ






<反省してたりなかったり>







『さぁて、行くか』


壊れた携帯を持つ俺には仁王は映らなかった。

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