立海

□大好きでした。
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「におー。」



真上から聞こえる澄んだ声。
でもここは屋上。さらに上となると……嫌な予感がして上を見れば見事に予想が適中してしまった。



「におー!聞いてんのか?」

『ブンちゃん、危ないから降りんしゃい。』

「大丈夫大丈夫!」



そう言って給水タンクの上でくるくると踊るブン太。
ただでさえ少ない足場なのにそんな動いたら危ないに決まってる。
もしも落ちたら、せっかく勉強して高校受かったのに、これじゃぁいろんな意味で“サクラチル”になってしまう。
俺は彼を止めるべく立ち上がった。



『ブン太。よく考えてみぃ。今ここで怪我なんてしたらうっざーい先公方に指差して笑われるぜよ。そんなん見て笑えずに高校行くなんてたまったもんじゃないじゃろ。』

「…そうだな。卒業式に入院って笑えねーや。」



珍しく言うことを聞いたブン太はゆっくりそこから降り、俺の隣に座った。

卒業式では泣かなかったけど、こうやって二人で屋上にいるのも今日が最後…と思うと少しは寂しいと思える。
俺とブン太はそれぞれ違う高校に行く。
どちらからとかなく受験勉強を始めて、どちらからとかなくそれを報告した。
たぶんお互いわかっていたんだと思う。
もう同じ道を歩めないことも、この関係がもう続かないということも…。



『ブンちゃん、俺な、昨日考えたんやけど』
「うん」
『中途半端に付き合うよりすっぱり切った方がいいと思うきに』
「…うん」
『……別れよう』
「………うん」



ブン太の目に一筋の涙が流れる。
その表情は今まで見たブン太の中で1番綺麗だった。

校庭では卒業式が終わってから1時間以上が経っているのに関わらず賑やかで、なんだかこの屋上の空気との違いに笑みが零れる。
それを見てブン太も笑っていた。
そしてほぼ同時に言葉を発した。




『さよなら丸井ブン太』「さよなら仁王雅治」









『「あなたのことが好きでした。」』




<だいすきでした。>


一緒にいようなんて言えなかった。

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