立海

□その愛で煮詰めて
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※暗
※仁王が浮気








「仁王はずるい」




雨の中、ブン太は俯きながらそう言った。


俺は傘もささない彼にそっと自分の傘を差し出す。
でも受け取ってはもらえなかった。





「ずるい、ずるいよ」






ぽつり、ぽつりと彼は言葉を紡いだ。
消え入りそうな…でも耳に残る声で、ひたすら。


だが、その言葉一つ一つを掻き消すように雨の勢いは強くなっていく。
俺はブン太が風邪をひくと嫌だから、自分の方に引き寄せて今自分がさしている傘に無理矢理入れた
すると、ブン太は急に顔を上げて俺の頬を叩いた。

痛い。
ジーンとした痛みが頬を伝った。





「どうして優しくするの」


『好きだから』


「どうしてそうやって嘘つくの」


『嘘じゃなか』


「っ…ふざっけんな!……俺がどんな思いで…!」


『ごめんな、ブン太。でも愛してるのは本当やから』


「…っ」





お決まりな甘い台詞。

うろたえるブン太。


全部変わらない。
いつもどうり。




そうやって泣きそうな顔しても俺のことが好きだから離れられない。
だから浮気されてもなにも言わない、言えない。
ああなんて可哀相なブン太。





『愛してるから今こうやって一緒にいる』


「嘘だ」


『愛してるから今こうやって話してる』


「嘘、…嘘だ」


『ブン太は俺のこと嫌い?』





そう言えば返ってくる言葉は「好き」か「愛してる」のどっちか。


そろそろ学習しなよブン太。
馬鹿みたいなループはそろそろ飽きたよ?



ここで「嫌い」と言ってみなよ。「離れて」って言いなよ。
……まあ俺は離さないけど。





「…す…き」

『うん。俺も』




はい。やっぱりループ。

そうして俺はまた他の女と一緒に遊ぶ。
キスする。
寝る。

それで可愛いブン太はまた嫉妬して、俺に依存。





「ぃ…やだ…もう…嫌だ」



『ん?』



「死にっ…」





ブン太が言葉を発する前に小さなその唇を塞ぐ。




…駄目だよ。






"死にたい"なんて言葉だけは言わせない。




<その愛で煮詰めて>

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