立海
□みんな一緒で
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9月25日
みなさんは何の日かわかりますか?
正解は柳さんと二人っきりで過ごせる日…という名の俺の誕生日です。
<みんな一緒で>
「おはよう、赤也」
「はよー赤也」
『あ、おはようございます柳さん、幸村部長』
朝、いつもどおり二人の先輩に会った。
先輩達は今日俺の誕生日ということを忘れてるのか「おめでとう」の言葉はない。
でもそれは逆にありがたいことだ。
というのは冒頭で言った“柳さんと一緒に過ごせる日”にするには楽だからである。
実は“柳さんと一緒に過ごせる日”というのは予定であり、まだ現実にはなっていない。
今日はそれを実現させるために頑張るのだ。
ちなみに去年はいい雰囲気のところを魔王こと幸村部長達の手によって邪魔された。
先輩方は何故か知らないが俺と柳さんとの邪魔をしたがる。
だがしかし、今日こそはそんな邪魔なんてさせない。
今日は部活もないしクラスメートの誘いも全て断ったし、さらには家にはみんな出掛けていて明日の昼まで誰もいない。
そんな最高のシチュエーションで二人っきりになってやるのだ。
そのためにはまず、誰にも邪魔されないように柳さんを誘わなければ…。
俺は連日から考えていた作戦を決行した。
「…赤也?大丈夫か?」
『全然大丈夫っす!そんじゃあ俺宿題があるんでお先に失礼します』
できるだけ自然を装い、俺は玄関へと走った。
*******
『ついにきた…』
昼の休み時間。
そう。ここから俺のバトルが始まる。
『まずは仁王先輩と丸井先輩から…』
俺は屋上へ行き、作戦を決行した。
「ブンちゃん、今日は寒いのぅ」
「そうだな…雅治暖め『先生ぇぇえ!!!!ここにサボり常習犯がいます!!!!』………は?」
丸井先輩と仁王先輩の間に静かな沈黙が起こる。
そしてそこへ説教が長いと有名な教頭が現れ、さらに二人は混乱した様子で逃げようとした。
「さあお前ら…今日は逃げられないぞ。
普段私の説教を逃げてる分、次の授業を潰して倍の時間説教させてもらうぞ!」
嫌だぁぁぁぁという叫び声が二人分聞こえたが、今はスルーして裏庭に向かった。
全ては柳さんと二人で誕生日を過ごすため…。
********
次は難関幸村部長。
俺はこれだけのために三日使って作戦を練った。
きっと…きっと成功するはず!
俺はいまから裏庭で柳さんと一緒に弁当を食べるであろう幸村部長を引き止めた。
『幸村ぶちょー!!』
「ん?なんだい赤也」
『真田副部長が階段から落ちて倒れたって。今保健室で寝てて…とにかく大変なんっすよ!行ってください!!』
精一杯の力で必死の演技をする俺。
何回も練習して親も騙せるレベルになったほどだ。多分幸村部長は焦って保健室に行くはず…。
まあ真田副部長が保健室にいるというのは嘘だけど(確か風紀委員のミーティングに行っている)
しばらく幸村部長は黙り、そして口を開いた。
「……えーめんどくさい」
『…え?』
幸村部長と真田副部長は恋人。
確か俺の記憶ではそうあったはずだが…否、恋人だ。
いやいやいや、おかしいでしょ。
ホントに恋人ですよね!?
恋人が倒れたって聞いて恋人の元へ行かない人がいるのだろうか。
「ここにいるじゃん」
『ちょっ!?人の心を読まないでくださいよ!』
「ははっ。ごめん。
ってかだって恋人っつったって真田じゃん。別にあいつ倒れたって一時間あれば起きるんじゃない」
『起きるんじゃないって…』
ハハハと笑う幸村部長。
俺の言うことを信じてないのか、それとも本気でそう思っているのかどっちなのかとかどうでもよい。
あと一歩なのだ。
これで引き下がる俺ではない。
『…真田副部長、大分打ち所悪かったみたいで、ずっとうなされながら「幸村…幸村」って』
ちょっと涙ぐみながら下を向く俺。
お願いだ幸村部長!行ってくれ!
「…まあ見に行って笑ってやろうかな」
うっっっし!!
これで難関はなんとか突破した。
あとは柳さんを家に誘うだけだ。
俺は保健室に向かう幸村部長と逆方向の裏庭に走っていった。
*******
『柳さん!!!!』
「なんだ赤也?」
弁当を広げ、幸村部長を待っているであろう柳先輩。
いつ嘘だと気付いた幸村部長やなんとか教頭から逃げてきた仁王先輩と丸井先輩が来るかわからない。
時間がない。
『柳先輩!!今日俺の誕生日なんです!!!その…俺の家で二人っきりで過ごしませんか?』
俺は少し早口気味で言葉を紡いだ。
「…」
『や…柳先輩?』
俺の予想では「ああ」と即答してくれると思った。
だが柳はひたすら無言でこっち見ている。
まさか…断られる?
そーいえば、柳さんに断られるという可能性を考えてなかった。
やばい。やばいやばいやばい!!
まさかここに来て失敗!?
柳さんとうはうはラブラブで一夜を過ごすという計画は全てナシ!?
俺の目に涙が浮かんだとき、柳さんは小さな声で
「いいぞ」
と言った。
『え?え?いいんですか?
やったぁぁぁぁあ!!!!』
「ああ……………だがやはり無理そうだな」
『…………え?』
「やっぱりね。そんなことだったか」
後ろを向くとそこには真田副部長と柳生先輩を除く、立海R陣がいた。
「あーかーや!!テメーよくもやりやがったな!」
『わわわわ!丸井先輩!!』
「ブン太!今日は赤也の誕生日なんだから少しぐらい我慢しろ」
そう言って俺につかみ掛かった丸井先輩を剥がすジャッカル先輩。
そうしたら丸井先輩は渋々おとなしくなった。
ってか俺の誕生日…
「あ、遅れたね。みんな!せーの」
「「「「「HAPPY BIRTHDAY赤也!!」」」」」
『え!?…や、柳さんまで…』
「赤也が一週間前からなんか企んでたからね。まあ柳関連だと思って泳がしておいたら案の定、こんなことだとはね。
でもね、赤也。俺達三年生はみんなで後輩の誕生日を祝う最後なんだ。それはちょっと淋しいな」
『最後…』
幸村部長は悲しそうな顔で笑った。
幸村部長達はみんな同じ高校に進むわけではない。
確かにこれがみんなで祝ってもらう最後の誕生日会かもしれない。
『…先輩達………俺の誕生日、みんなで祝ってもらえませんか?』
涙目だからきっと今の俺はすごくカッコ悪い。
だけど先輩達も涙目で(柳さんはわからないけど)「もちろん!!」と答えた。
…なんだか珍しくしんみりした空気に笑えてきた。
俺が笑うと伝染したのかみんなで笑った。
やはりこのメンバーは涙より笑いが似合う。
そしてそのあと、明日みんなで俺の誕生日会を開くことを約束した。
いきなりのことに真田副部長と柳生先輩が驚くだろうな。
そんな二人を見てまたみんなで笑おう。
そう心に決めた。
HAPPY BIRTHDAY 赤也!!
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