その他

□惚れるもんか!
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「ひーよしくん」






俺より4センチ低いくせっ毛の黒髪が俺の腰に腕を回す。

まだ朝練の最中でラケットを振っているんだが…顔面に当てていいということか?





『…またお前か。今度はどうやって来たんだ』


「前回と同じく強行突破にしようとしたけど、流石に同じ手はくらわなかったから警備員眠らせた」


『…はあ……お前も飽きないな』


「ん?惚れ直した?」






そう言ってこいつ…切原赤也はいつもどうりの無邪気な笑顔で俺を見る。

でもそんな顔を見ても、そんな言葉を言ってもなにも思わない。





なぜなら…



『…俺はお前に惚れていない』


「あはは。もう日吉くんったらツンデレだなぁ」





…握った拳は我慢した。
冷静になれ、日吉若。




こいつが俺に付き纏い(ストーカー)始めたのは約一ヶ月前の買い物の途中。
切原は東京の方の親戚に会いに来てたらしくこっちにいて、たまたま会ってしまった。
最初俺は特に関わりもない奴だったから無視をした……だがあいつは俺を見るなり「日吉くん!!俺と付き合って」とかなんとか…。
しかも、人が大勢いるなかで。
聞き間違いだと思い聞き直したらお次は「愛してる」だなんだの。

最終的には今のように氷帝の朝練にたびたび来るようになった。
先輩達は笑ってるだけだし…ほんと勘弁してほしい…。






「日吉くん好き好き付き合って!」


『い・や・だ』


「日吉くん可愛い!!最高!!!」


『ああ!!もう黙れ!!!!』





回りにいる先輩達が今日も笑う。

くそっ…恥ずかしくて死にそうだ。






「おい切原、お前毎日ここ来て練習はいいのか?」


『あ…跡部さん』





気がつけば後ろに跡部さんがいて、俺達に声をかける。
氷帝の練習の邪魔になるし、ほぼ犯罪に近いことをしているのに…何故跡部さんはこいつを追い出さないんだろうか。






「朝練はできないけど、ちゃんと帰って練習してますよ。まあ練習しなくたって氷帝には絶対勝つ自信ありますから」


「あーん?言うじゃねーの」





バチバチと効果音が聞こえてきそうなくらい喧嘩腰の二人。

はあ…胃が痛い。


とにかく俺は二人を止めるべく間に入っていった。






『切原、跡部さん落ち着いてください。』


「なんだよ日吉くん。止めんなよ」


『跡部さん。俺、こいつを校門の外に連れていきます』


「ちょ無視!?」






切原を無視して跡部さんにそう告げると、跡部さんは不機嫌そうな顔をして「わかった」と一言だけ言った。
そんな顔するんだったら最初っからこいつ追い出せよ!…とか思ったけど口には出さない。
まあ仮にも先輩だし部長だからな。



俺は煩い切原の腕を引っ張り校門へ向かっていった。











*******











『やっと着いた…』





途中切原が暴れたりしたがなんとか校門近くまで連れていくことができた。

なんだか時間が経つのが遅く感じる。
疲れているだからだろうか。






『とりあえず今日のところは帰れ。できれば明日も来るな』


「日吉くん」


『なんだ?』


「俺のこと嫌い?」


『好きじゃないが…嫌いなわけではない』


「ふーん」



『なんなんっ!?…』







ぐっと腕を引っ張られたとたん






唇に柔らかい感触。


目の前には0距離で切原の顔。








キス…されたんだと気付くには時間が掛かった。








『んなっななななななんだ!!!!?』


「っぷ…日吉くん顔真っ赤。可愛い」


『そ…そうじゃなくて…人がいなかったからいいものの…!!』


「あははごめんごめん」


『ふざけるな…!!』






今まで我慢した分の痛いぐらい握った拳はもちろん切原目掛けて飛んでった。

…避けられたけど。




本人にこれを言ったらまた調子に乗るから言わないけど、これが俺のファーストキスなのだ。
それが好きでもない同性って…怒らない方がおかしい。






『一発でいいから殴らせろ』


「俺ドMじゃないし、嫌に決まってんじゃん」


『…っこの!』



「日吉くん、あのね…俺、日吉くんのことが新人戦で会ったときから好きだった。クールで唯我独尊で、でもどこか幼くて可愛い…全てに惹かれた」


『はっ?…い…いきなりなんだ』


「日吉くんが俺のこと好きじゃないのは最初っからわかってる。でも好きなんだ。だから1%でも可能性があるのなら…嫌いじゃないのなら……俺は日吉くんのこと諦めない。
日吉くんは今ので俺のこと嫌いになった?」





切原は真っ直ぐな瞳で俺を見つめた。

嫌い!って言いたいところだったがここは素直になって小声で「別に嫌いじゃない」と言った。
なんだか顔が熱い。恥ずかしい。





「ひ…日吉くんの貴重なデレだ…!」


『だから俺はツンデレじゃない!!』


「ははっ可愛いなぁもう」





そう言って切原は俺を抱きしめた。



動けない俺を見て切原はもう一度笑い、俺の耳元で「また明日、日吉くん」と囁き息を吹きかける。

俺が殴ろうにも殴れないまま、あいつは帰っていった。












っ畜生!!









<惚れるもんか!>


(ドキドキなんか…ドキドキなんかしてないっ!)


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