四天宝寺

□手
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「じゃあ待っててほしか」


『お…おん。早く終わらしてこいや』





あれから部室から出たものの、千歳が先生に呼び出しされてまた部室に戻り、待つことになった。

先生に呼び出された理由は…だいたい予想はつく。
出席日数とかそのへんだろう。





「なんね蔵。財前の話、やっぱり怖かったと?」


『ちゃうわボケ!!いいから早く戻ってこいや!!!』

「痛!暴力反対!」





クスクス笑う千歳をよそに俺は部室へ入る。
扉の向こうから「なるべく早く終わらすばい」と千歳の声が聞こえた。










カチ カチ カチ





『遅い…』





部室の時計の音がやけに大きく聞こえる。


千歳が行ってからもう40分が経っただろうか…
このままだと完全下校時刻を過ぎてしまう。


…一応千歳の様子を見に行くか



俺は座ってた椅子から立ち上がり、ドアに向かった。





その、瞬間…






ガタガタガタッ










『っ!!?……今の、音は…?』




あきらかにこの部屋からした物音。

でもこの部屋には時計の針の音以外の音はないはずだ。
あるとしても、自分の独り言くらい。




気のせいだと思い、また一歩進むと…





ガタガタガタガタッ






またあの音が聞こえた


それはまるで、そっちに行くなと言っとるようで…



俺は回りを見渡した。



…ふっと目に止まったのは自分のロッカー

いや…まさか…な





『気のせいやな…』
ガタガタガタガタガタッ





やっぱり、俺のロッカーに何かあるみたいだ。

ってか、今のは心臓に悪いで。





…っていうかこれはどうすればいいのだろう


@ダッシュで部室を出て千歳のところに行く。

A部長として部室の管理はしっかりしないといけないと、ちゃんとガタガタの原因を探す。

B無視してまた椅子に座り千歳を待つ。




んー…………これはまさにライフカードやな…







ガタガタガタガタ





自分のロッカーだし、ここはAでも選択するか



ああ…変なところで勇者な自分に拍手したい。

何かあったらとりあえず千歳、あとで殴らせろ







『大丈夫大丈夫…多分財前の悪戯とかやろ』






ガタガタガタガタ…





『ははっ何が入ってんやろ』




軽いノリで近づいたはいいもののロッカーの揺れは大きくなるばかりでやはり気味が悪い。



ロッカーとの距離が1mになったとき…揺れが止まった。






ギィッ…






そして止まったと同時にロッカーの扉が少し開く。




そこから出てきたのは白い、“手”



あきらかに人間の手なのは間違いない。





『ま…さかっ…
財前が言うとったのが本当に…?』





嫌な思考が頭を過ぎる


今日財前が言ってたのが本当なら…





(テニス部の人間を羨ましがるんやって。
“お前の手足、俺にくれぇ…”言うて…)






『…うっ』




気持ち悪い考えが頭を支配し吐き気がする




…だがこんな上手い話あるだろうか?


やはり財前が俺を怖がらせるためにやったんじゃ?




『きっとあの手はマネキンや』





自分に言い聞かせるように紡いだ言葉



霊なんていないんや
この世にいない…





俺は意を決してその手に触れた。











けど、なにも起きない。


軽く触れただけだが、なにも反応が無かった。




『はあ…やっぱりマネキンか…っっ!!!?』





安心もつかの間

驚くことにその手はロッカーに伸ばしていた俺の左腕を掴んだ。
冷たい…でも意思がある強い力で




驚きすぎて言葉が詰まる

頭がついて行かない





マネキンじゃないんなら人間?
人間じゃなければ霊?

…もしかしたら不審者かもしれない


もしそうであれば、それはそれで危ない





そういえば昨日、学校の体育の授業で“相手に腕を掴まれたとき、自分の身体を少し捻り相手の腕を捻ると振りほどき易い”と習った。

それを不意に思い出した俺は迷わず相手の手を捻った。




『…てやっ!』





…もちろん渾身の力でやった





だが、手は離れなかった





『っ…な…んで…』





何故効かないんや…


大概の人間になら効くと習った技だったが俺の覚え方が間違っていたのか?






(その人、車に轢かれてバラバラになって死んでるらしいんスっわ)




また、財前の言葉が頭を過ぎる。




“手足がバラバラ=間接が無いから効かない”

この思考も安直過ぎると思うが、今はそんなこと考えている暇がない。





とにかく振りほどこうと暴れるが、あんまり効いた様子はない。

そうするうちに、ロッカーもガタガタッと揺れる。





やはり本当に霊なのだろうか?


霊は足が無いとよく聞くが…





ふっと下を見ると足はあった。








ただし…





こちらにかかとを向けている状態…で。







『ひっ…っぅ』





怖い


その感情が身体全体に染み渡る。


とりあえず逃げる…!

逃げてそれ以上はそのあと考える…!





早く手を振りほどこうと目の前に視線を移すと、いつの間にか現れたもう一つ手。
その手は内側からロッカーの縁に手を掛け、完全に扉を開けようとしていた。






開けられたら、まずい



本能的にそれを察知した俺は、無我夢中で俺の腕を掴んでいる手とロッカーを蹴り続けた。
あまりの恐怖で手加減なんか出来るはずもなく、足を振るう度に白い手にどんどん傷がついていく…





とにかく必死で、なかなか離してくれない手に渾身の力を振るうと、手は意外にもすっと引いた。

気が付くと、ロッカーを開ける手も、おかしな方向を向いた足も無くなっていた。



俺の前には、ただ半開きのロッカーがあるだけ…







『っはぁ…はぁ……いなく…なったんか?』









“ぃ…い…”






『え?』










“…イタ…イ…い…い痛…イ…”






啜り泣くような、声。



ギィッ…とロッカーが開く、音。









“イタイヨ”






だらん、とした赤く染まっている…頭。





カチリと、眼前の双眸と視線が合わさる。










『うぁぁああああああ!!!!!!!!!!』







走る


逃げる


走る




時が遅く感じる

全てが遅い


俺はなんとか部室の扉の前まで行って扉を開けようとした。
だが扉は開かず、とにかく叩いた。
後ろの気配がどんどん近くなっているのを感じる…




もう終わりか…


そう思ったとき、何故か扉は簡単に開き俺は部室から勢いよく飛び出した。





「!?って蔵!!?
どうしたんね!!」



『ぅっはあ…はぁ……ち…とせ?』



「蔵!なにかあったと!??」




部室を出るとちょうどそこには千歳がいた。

見間違えるはずなく…たぶん本物の千歳。




『ちとせ…っちと…せっ!』





俺は安心感のあまり泣きながら、そのまま意識を手放してしまった。

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