For you

□『無意識』
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「…暑い」

「暑いですねー」


外には苦手な太陽が紫外線と暖かいって言うよりは不愉快な暑さをもれなくイタリア全土にプレゼントし、
クーラーが故障した(原因はボスらしいがここでは触れないでおこう)ヴァリアー本部は各個室一台の扇風機によって熱中症隊員を多出させていた。

幸いかどうかは未だ不明瞭だが幹部隊員の部屋は扇風機二台で、つるっつるで変態マセガキ丸出しの脳を持ったカエルが『ドキッ☆クーラーが直るまで扇風機四台!?センパイ&コーハイの真夏乗り越え同棲生活!!』を考案したのだ。
(補足だがタイトルの考案者は俺じゃない)


まあ扇風機が倍になるのは有りがたいし涼しくもなる。
それにカエルは自分はソファで寝るから寝るときも暑くないと言い出す。
まあ暑さで頭イっちまってたんだろう俺はまんまとカエルの手玉に取られ俺の部屋で生活を送っている訳だ。



「アイス食べますー?」

「…食う」




あ゛ー、最悪だ、
潔く扇風機二台で一人で過ごしておけば良かった。

まあ俺がこう思うのも昨日のヤツの発言が原因なんだけど。



『そういえばクーラーが直る日なんですけどー』

『ああ、どうせ二、三日だろ?』

『いえ、それがですねー、修理会社が今年の夏は忙しくててんてこまいらしいんですよー。
しかもほら、ここって結構山奥じゃないですかー、予約がまわってくるだけでも2週間そこらかかるそうですよー?』

『…は?』

『だから暫くの間ミーとセンパイは丸っきり同棲生活?みたいなー。』





THE END.俺の優雅なクーラー生活と自由な休みの日々よ。

元々暗殺の依頼はクリスマス近くやパーティーシーズンが多くて夏は仕事が少ない。
つまり暗殺部隊には(仮)の夏休みとなるわけで。




思っている内に目の前にスプーンと予算の少ないボンゴレ本部が「クーラー大変だったね、皆で食べてね!」というドンボンゴレからの田舎のおばあちゃんからの手紙みたいな気の抜けたメッセージを引っ提げて送り付けてきたカップアイスが置かれる。
まあ、味は悪くない事が一番の救いだな。



「もうすぐ夕方だから涼しくなりますよー」

「あー…もう5時か…」

「ご飯、どうしますー?」

「カエルは食欲あんの?」

「冷たいアイスで精一杯ですねー」

「だろうな」


因みにルッスーリアは南の島でバカンス中だ。
お気楽暗殺部隊とでも言うと良い。


「シャワー浴びて、そのまま寝る」

「賛成でーす」

「いや、一緒に行動するとも言ってねーけどな」

「え、でもミー逹同棲中ですよー?」


痛わしい、カエルの脳味噌はつるっつるを通り越してドロッドロになったらしい。


「よし、俺シャワー浴びよ」

アイスのカップをゴミ箱に投げ捨てつつカエルの言葉を見事に交わしバスルームへ。
出てくる前にヤツの脳味噌が本当に溶け落ちて無いかが心配だ………無いか。




1日分の汗を洗い流し水の流れに沿って下を向いていた髪の毛を掻き上げる。

夏はこの時間を堪能するだけにあるんじゃないかと思う。



いつもならタオル一枚で出る所だがそれであの年中発情ガエルに頂かれたらたまったもんじゃねえ。服を着てバスルームを出る。

…俺は自意識過剰……じゃないよな、違う違う。



「カエル入れば?」

「はーい」


予想以上に素直にバスルームに向かったカエルを見送りもせずに冷蔵庫を開ける。
三本程買い置きしてある牛乳のパックの中から開封済みな物を選び中身をコップに注ぐ。

考えてみれば牛乳は万能な飲み物だ、冬は温めれば人を芯から温めてくれるし、夏は喉に注ぎ込むだけで爽快感を与えてくれる。
うん、美味い。

自らの好物を称賛しながら冷蔵庫にパックをしまう。





暫くつまらない夕方の健全なバラエティー番組を観ているとカエルがバスルームから出てくる。


「あれ、待っててくれたんですかー?」

「…!……ちげーよ、眠れなかっただけ」


重たい瞼を開いて無意識にフランを待っていた自分を疎ましく思い、羞恥心に襲われる。

ニヤニヤとフランが笑いながらこちらを見て…

あーっ、コイツホントにムカつく!!



「王子もう寝るから…」

「あっ、ちょっと待って…」

「?…」


自分の首に巻いていたタオルを取り、俺の頭に乗せるフラン。


「いくら夏だからって、乾かさないとダメですよー?」


そのまま「ドライヤーは確かに熱いですけどー」なんて言いながらわしゃわしゃと掻き乱す。

…動けねーし…

近くにあるフランの顔を見てるとどんどん体が熱くなるのが分かって、じわじわと掌に汗が流れる。

シャワー浴びた意味ねーよ、フラン。


「うん、大体ですけど、大丈夫ですよねー」

満足そうに言うとタオルをそこら辺に投げ捨てて俺の髪を鋤く。

「…」

「…センパイ?」

「っ…」



お前の髪だってまだ濡れてるくせに、中途半端なマセガキ、バーカ。
言いたかったけど、やっぱ言えなくて。そんな俺を見てるフランはまた子供みたいに笑って。



「そろそろ寝ますかー?」

「…寝るし」

「じゃ、おやすみなさい、ベルセンパイ」

「…ん。」



ベッドルームに入る俺を見送ったフランはソファに最早備え付け同然になったタオルケットの中に潜る。それを振り返って見た俺は、なんか、哀れっつーか、そう、哀れだと思っただけ。



「ソファ、痛くねーの?
 …今日ぐらい…いいよ。」

「…!!」


バサッと大袈裟な音を立ててフランが起き上がる。
…バカ。


「来ねーの?」

「…!…行きますー!」


嬉しそうに言うとフランは勢いよく走って来た。
リビングのライトを消し、一緒にベッドに入る。




「…センパイ?まだ起きてますかー?」

「…なんだよ…」

「暑いですねー?」

「ああ…」

「あっついですねー」


語尾に調子を付けるようにフランが言う。


「あっちいよ、誰かのお陰で」


向かい合って言うと、なんか笑えて。羞恥心とか馬鹿らしさとか混ざったのを紛らわすように笑った。

フランはいつも以上に機嫌が良くて、笑う俺を見詰めて側に寄り、キスをした。


「あっつい…こっちくんな」

「センパイ…ガキ」

「うるせーよ…ガキ」



また二人で笑って、目を閉じた。



明日もカエルは一緒に寝たいなんて言い出すから、
その時はソファで一緒に寝よう………機嫌が良かったら。




最後に付け足して、
真夏の夜に眠りに落ちた。






END

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