Gift

□春暁
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春眠不覚暁

処処聞帝鳥

夜来風雨声

花落知多少









春暁




























今年の長く厳しい冬が漸く去り、日本列島にも暖かな春が訪れた。

これは平和・平穏、そんな言葉がよく似合う春の午後のお話である。








野球の強豪校である青道高校は春休み中も毎日、朝から晩まで練習に励んでいた。これからやってくる新しいシーズンに向け部員誰もが自己の能力向上に余念がない。

そんな青道野球部にも、はりきりの余り無茶をしてしまいかねない(一部の)部員の抑制の為か完全休業日が設けられていた。
その日に行ってもよいのは簡単なストレッチや筋トレのみ。それ以外は一切禁止である。

そして多くの部員はここぞとばかりに遊びに出たり、思う存分惰眠を貪ったりするのだ。



天才、と名高い青道高校の新キャプテン御幸一也も例外ではない。
できるだけ生活のリズムを崩さないように、いつもより小一時間多めに寝るだけのつもりであったが、気が付いた時にはすでに10時半を少し過ぎてしまっていた。
完全に寝坊だ、と頭を掻きながら遅めの朝食、・・・いやブランチを取りに食堂へ向かった。




「あ、」

「あ?」


ガラガラ、と引き戸を引いた途端上がった声に御幸は思わず聞き返し、声のした方へ顔を向けた。

そして、そこには、


「沢村、」

「・・・・っス」


なんだか複雑な顔をした沢村がいた。
休みとはいえなんだかんだ早起きをしていそうな少年が今食事をしていることに、御幸も少し驚く。

それに加えて、沢村と御幸はちょうど一週間前からいわゆるお付き合い、というものを始めたばかりだった。
起きて一番に見たのが愛して止まない恋人の顔だったのが余程嬉しかったらしく、満面の笑みを浮かべたまま御幸は沢村の向かい側に腰を下ろした。




「おはよう、栄純」

「っっっ!!!」


わざとゆっくり、噛み締めるようにして下の名前を口にする。
そうすれば面白いくらいに真っ赤になる顔。この初々しい反応に御幸の笑みは深くなる一方だ。



「お前、こんな時間になにしてんの?まさかそれ、もう昼飯?」



沢村の前に置かれた食事を指さしながら問えば、ふるふると否定が返ってきた。


「や、昨日、倉持先輩に、ゲーム付き合わされて、4時、くらいまで起きてた、ら寝坊した」


「あー、なるほど。・・うん、お疲れ」


心底疲れた、という雰囲気の沢村は半分眠っているのか時々頭がかくんっと落ちそうになる。このまま放っておけば顔面からご飯の中にダイブしそうだ。
とりあえず目にでも刺さったら危ないので、左手から箸を抜き取ってやるが、気が付く様子はない。


「おーい、お前眠いなら部屋行ってちゃんとベッドで寝ろよー」

「んぅ、それ、は、・・むり」

「なんで?」


眠りの中に片足突っ込んだような声に問い返せば、切れ切れの言葉で未だゲーム大会続行中の倉持に捕まる、という返事が返ってきた。
余りに納得のいく返答に御幸が頷こうした時沢村の頭が思いっきり前に傾き、慌てて差し出した御幸の腕にポスっと軽い重みがかかった。


「っぶねぇー・・、おい、栄純?」

「ん〜、」


自分の反射神経に心底感謝した御幸がもう片方の腕で沢村の頭を軽く叩くが、生返事しか返ってこない。


「おいおいマジで寝てる?」

「う、ん・・」

「・・・えーじゅん、起きてる?」

「・・うん」

「・・・」


仕方ない、とため息を吐き出した御幸は完全に眠り始めてしまった恋人を抱き上げると食堂を後にした。

































あったかい・・?




沢村はもぞもぞと寝返りを打った。
何だか酷く落ち着く。
寝やすいとか、そういうんじゃんなくて、こう安心するというか幸せな気持ちになるというか、そんな感じ。


まどろみの中を漂っていた沢村は自分の頭に乗せられた小さな重みに、未だ離れ様としない瞼を無理やり開ける。

うっすらと開かれた瞼。そこに最初に映ったのは真っ赤な夕日が覗く窓だった。
綺麗すぎる光景に見惚れた沢村だったが、自分の頭をゆるゆると撫で続ける優しい重みにそっと視線を上げた。


「ん、起きたのか?」

「・・み、ゆき・・・?」


雑誌を片手に自分を撫でる御幸がやわらかく微笑みながらこちらを見下ろしていることに沢村は驚きの声を漏らした。


「な、んで・・」

「さて、どうしてでしょう」

「え、・・・・・え?」


どこか楽しそうに笑う御幸に沢村は先程自分がまどろみの中で最初に感じたことを思い出し、自分の頭の下にあるものと御幸の顔とを交互に見やった。


「気づいた?」

「っ!!!!!」


そう、自分の頭の下にあるものは無機物にしてはいやに温かい。そしてそれは視界の端に映る御幸のスウェットと同じ色をしている。

そこから導き出される答えは、ひとつ。


「初・膝枕のご感想は?」


頭を撫でていた御幸の手が沢村の顎にかかり、クイッと上を向ける。
そのまま沢村の視界いっぱいに御幸の顔が迫り、








チュッ








「・・・・・・・っ!!!?」



柔らかな感触と、ほんのりとした体温が。

それが御幸の唇だと気が付いた途端、沢村は先程まで眠っていたとは思えない速さで、まさしく飛び起きるとそのまま奇声を発して部屋を飛び出してしまった。


あまりに素早い沢村にあっけにとられていた御幸だったが、小さく吹き出すと堰が切れたかのように笑い出した。


「はっはっは、可愛すぎんだろ、デコちゅーで真っ赤って」


目尻に溜まった涙を拭って一息つくが、一瞬で茹蛸のようになった沢村を思い出して御幸は再び笑みを零す。

心底可笑しそうに笑う御幸だが、その手は先程まで傍にあった体温を惜しむかのように膝を撫で、その顔はほんのり赤く染まっていた。






はたして、それは夕日のせいか。
それとも・・・





end.



6000hitキリリク
部活がお休みの日のほのぼの御沢でした。
廉様、リクエストありがとうございました!!こんなものでよろしければご自由にお持ち帰りください!!
書き直し・返品はいつでもお請けいたしますので。
長々お待たせしてしまって申し訳ありませんでした。こんな駄目管理人ですが、これからもROMANCE BLUEをよろしくお願いいたします。このたびは本当にありがとうございました!!

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