Gift
□Sister Complex
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事件はある晴れた日の明け方に起こった。
―――――コンコン、
まだ薄暗い明け方、扉を叩く小さな音にまどろみの中を漂っていた倉持 洋一は意識を浮上させた。
手探りで枕元の携帯を探しディスプレイに時間を表示させる。
先程まで閉じられていた瞳には眩し過ぎる画面に映された時刻は午前5時半。朝練に行くにしても早過ぎる時間だ。
「、ぃ、……ぉぃ、沢村、」
二段ベッドの下で眠る後輩、沢村 栄純に声をかけるが反応がない。何度か試してみるが結果は同じで、倉持はため息をつきながらベッドを降りた。
頭をガシガシと掻き回し、薄暗い室内を扉へと向かう。明け方の無作法な訪問者を無視してしまう事も考えたが今日の練習の事務連絡だった場合にそれではマズイ事になる。故に未だにぼんやりとした意識のまま倉持は扉を開けた。
……開けた、がそこには誰もいない。
「…あぁ?」
倉持が不機嫌そうな声を漏らすのも当然で、軽く舌打ちをして扉を閉めようとしたところで声がかかった。
「あ、待って下さい!!閉めないで!」
その声は倉持の足元から聞こえた。倉持と同じ青道高校の野球部員にそこまで背が小さい人はいない。第一聞こえた声は高く、そして幼かった気がする。不思議に思った倉持が視線を自分の足元に落とした。
そこには、
「……さ、沢村!?」
そう、倉持の後輩で同室の沢村 栄純そっくりの子供が、
「……ん?」
倉持はそこで、はてと首を傾げた。確かに目の前の子供は後輩に似ている。そっくりさんだ。世界中捜したってここまで後輩そっくりな子供はいないだろう。だがよく見ると後ろで伸ばした髪を一つに結んでいるし、大きな瞳を縁取る睫毛も長い気がする。まぁ後輩のも長い方なのだがそれよりも、だ。そう、後輩をそっくりそのまま女の子にした感じなのだ、目の前の子供は。
信じ難い状況に固まってしまった倉持に対し、沢村そっくりの子供はペこりと頭を下げ更なる爆弾を投下した。
「はじめまして、沢村栄花(はるか)です。いつも兄がお世話になってます。」
「!!!!!!?」
SISTER COMPLEX
「は、栄花ぁー!!?」
自称栄純の妹、栄花の衝撃の自己紹介から僅か10秒程あと、沢村栄純は同室の先輩からの容赦ないチョップによって目を覚ました。
痛みに瞳を潤ませながら起き上った沢村だったが、自分の目に映った少女に痛みも忘れ、盛大に叫んだ。
「お兄ちゃん!!!」
驚く沢村をよそに栄花はベッドの上の沢村に飛び付いた。
「え、ま、マジで栄花?」
あわあわという効果音がピッタリと合うような慌てぶりの沢村に、チョップをかまして以来黙りっぱなしだった倉持と驚きの余り先程から一言も発していなかった増子が口を開いた。
「・・沢村、そいつ、マジでお前の妹?」
「あ、はい、そうッス。えと、今年小学3年生ッスね。」
「沢村ちゃん、妹なんていたんだな・・」
「あれ、言ってなかったッスかね?」
沢村は自分に抱き着き猫のようにすり寄ってくる妹を撫でながらきょとんと首を傾げた。
そんな沢村にため息を吐き出した倉持はもうどうにでもなれ、といった態で床に座ると栄花に話しかけた。
「おい、沢村妹。お前どうやってここまで来たんだ?」
「そうだ!栄花、母さんとか親父とかに言って来たのか!?」
倉持の問いに遅ればせながら重要な事に気が付いたらしい沢村も、慌てて妹に尋ねる。
「えっと、倉持先輩、ですよね?ここまでは新幹線と電車を乗り継いできました。長野から東京までは新幹線で一本だし、そこからの電車もそんなに複雑じゃなかったですしね。迷わないで来れました。」
ニコリと可愛らしく笑う少女に倉持は、眩暈を覚えた。先程も述べたがこの少女は後輩にそっくりなのだ。その少女が可愛らしいといことは、後輩も可愛い、という方程式ができあがってしまう。そこまで考えて倉持は、ブンブンと頭を振った。
(落ち着け、俺!俺はどっかの変態メガネと違ってそんな趣味はない!!・・・・・・・ハズっ!)
一人葛藤する倉持の横で、沢村は妹に詰め寄っていた。
「親父たちには何も言ってきてない!!?」
そして妹から告げられた驚きの事実に、顔面を蒼白にしてから慌てて携帯電話を手に取った。