Gift

□春うらら
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冬から春へと移り変わり、木々や草花が少しずつ鮮やかになっていく今日この頃。冷たい北風よりもふんわり春の香りがする南風が吹く日が増えてきた。
そんなぽかぽかとした春の日の暖かい陽射しを、誰よりも満喫している者がここに一人。








…………いや、一匹?





「栄純、寝てんの?」
「……」
「…えーいじゅーん?」
「……」
「えーいー?」
「……」
「…………栄純、おやつ食う?」
「……」





珍しい。非常に珍しい。
いや、俺の呼びかけは全部無視でおやつの一言で起きられたらそれはそれでなんだかやるせないけれども。だけど、栄純がおやつという単語に反応しないなんて初めてかもしれない。






俺の目の前にいる猫耳少年(中身は青年、のはず)、栄純は窓から差し込む陽射しによって明るくなった床に腹ばいになって四肢と尻尾、耳までもをだらりと伸ばしてぐっすり夢の中だ。
こうして日なたで眠っているところなんかを見るとあーやっぱり猫だなぁ、なんて思ったりもするけど、この伸び具合はいかがなものだろうか。これで俺と出会う前は野良だったっていうんだから恐ろしい。良く生き延びてたな、コイツ。

そっと手を伸ばして柔らかそうな頬をふにっと突くが何の反応もない。続けてふにっふにっと弄ってみるが効果なし。頬を摘んで軽く引っ張ってみたが全く起きそうもない。
ここまで無反応だと日なたに少年を盗られた様でなんだか悲しいというか悔しいというかそんな気持ちになる。俺の独占欲も大概だ。けれどそんなことじゃへこたれない。こうなったらなんとしてでも起こしてやりたくなった。




暫く考えて思い付いたのは両刃の剣のようなアイデア。
うまくいったらいいけど、失敗した時のダメージは大きい(主に精神的に)
それでもこの少年のくるりとした大きな瞳や花が咲いた様な笑顔が無性に見たくなってしまったのだ。



挑戦あるのみ、だな。















わざとらしく声を出して、




「あ〜あ、折角、一ヶ月ぶりに休みがとれたからどっか出掛けようと思ってたのに、」
「……」
「栄純が寝てるんじゃなー」
「…………ぅにゅ…う」




お、寝返りうった。
もうちょいか?




「どーすっかなー」
「………………、んん




ぐずる様に何事かを呟いて栄純は丸くなる。


俺は玄関に向かいスニーカーを引っ掛けた。
2DKの狭い部屋だ。玄関からでも栄純の姿は見える。




「………仕方ねぇから俺一人で出掛けてこようかな、」



そんなつもりは微塵もないけれど。そう声をかけてから後ろを向きドアノブに手を伸ばした途端、腰辺りに軽い衝撃。
振り返れば潤んだ大きな瞳と視線が絡む。




「栄純?」
「………だ」
「ん?」
「…置いてっちゃやだぁ」



寝起きも相まって限界まで潤んでいた瞳から涙がボロボロとこぼしながら、俺の足にしがみついてくる栄純。
予想以上に嬉しい、かもしんない。泣いてるヤツ前にして不謹慎だけど、そんだけ俺に依存してくれてるっつーのが嬉しい。寝起きとか寝てる時は本音が出るっていうし。つまるところこれが栄純の本音ってことな訳で。



「ほらほら泣くなよ、栄純」
「…ぅにゃぁ、やぁ………行っちゃやだぁ」



あまりの泣きっぷりに抱き上げて背中をぽふぽふと叩いてやれば、するりと細い腕が首に回る。そのまま首筋に擦り寄る様にして嗚咽を漏らす栄純に思わずにやけそうになった。




「俺はどこも行かねぇから。だから泣かないの」
「……に、」
「なに?」
「…ホントに、どこも行かない?」


未だに涙の膜が張った瞳で見つめてくる栄純を思いっきり抱きしめた。腕の中の存在が愛しくて愛しくて堪らなかった。




「行かない。俺は栄純を一人になんか絶対しねぇから、だから」










今日の太陽みたいに笑ってみせて?














春うらら
(抱きしめた君は日だまりの香り)




end.




しなの様、相互ありがとうございました!!
相互して頂いた上に人獣栄純が可愛い、とのお言葉まで!!感激のあまり勢いで書いてはみたもののいつもの残念具合となにも変わりませんでした(:_;)
こんな駄文ですが相互記念として捧げさせていただきます!
返品、苦情いつでもお受けしますので!
今後ともROMANCE BLUEと雪海をどうぞよろしくお願い致します(´∀`*)

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