Gift

□未来の約束
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練習の終わりに吹く風がほんのり冷たくなってきた今日この頃

沢村は一人見慣れぬ部屋で落ち着かない様子だ
立ち上がってこそいないものの正座した膝の上で握った手がそわそわと揺れ、大きな瞳はキョロキョロと部屋の中を見る


「お待たせ、」


カチャリ、と音を発てて部屋に入ってきた男に沢村は無意識のうちにほっと息を吐いた


「はっはっはっ、なんだよ栄純。そんな借りてきた猫みたく大人しくして」
「そ、そんなことねーし」



部屋に入って来た男、御幸に頭をくしゃくしゃと掻き混ぜられながらそう言われて、反論する沢村だがいつもより勢いがない
恨みがましい目で御幸を睨みつけるだけだ


「だ、って…」
「ん?」
「なんか、落ち着かない、」







そう、今、沢村は先輩兼恋人の御幸の実家に来ているのだ
初めて来る御幸の家。これで落ち着けという方が無理だ、とぼやく沢村。そもそも何故沢村が御幸の家にいるのか、






事の始まりは昨日の夜に遡る




『栄純、明日俺ん家行くから』
『…………………………はい?』



少しも異論を挟むところのない決定事項として、いきなり告げられた久方ぶりの休日の予定


『明日の朝、飯食ったらすぐな』
『……………』
『おーい、栄純〜?』
『………な、……』
『ん?』
『いきなり無茶言うなぁー!!!!!!!』



遅ればせながら自分の置かれた状況を理解した沢村の平手が見事に御幸にヒットし、この後一悶着あった訳ではあるが結局御幸に説き伏せられ、翌日、御幸の実家に連行されたのだ













そして冒頭に至る訳である



未だにぎこちなさが拭えない沢村を横目で見つつ、御幸は鞄に荷物を詰めている。そう、今回の急な帰省の目的は冬物の確保なのだ。



「そんな畏まんなって。その辺の本棚のヤツ好きに見ていいから」
「マジ?」
「おー、野球のばっかだからお前でも読めんだろ」
「む、そんなこと、………あ、」



言外にそれ以外は無理だろ、と言われ言い返そうとした沢村だったが目に入ったとあるモノが気になって言葉を飲み込んだ


「御幸、これ…」
「んんー?」


沢村が本棚から引っ張り出して御幸に見せたモノは、




「アルバム?」
「み、見ていいっ?」


キラキラと光らせた瞳で聞かれて御幸が断れる筈がない。了承すれば沢村はソレを床に広げてめくり始めた。いつものようになってきた沢村に小さく笑みを零し、作業を続けていた御幸だったが、いつしか沢村の隣に腰を下ろし一緒にアルバムを覗きこんでいた。



「なぁ、これっていつの写真?」
「あーこれは多分、あれだ。小1くらいん時に初めて試合でヒット打った時のだな」
「へー、……あ、じゃこっちは?」
「それは、」



写真を指差し尋ねる沢村にひとつひとつ答える御幸。
生まれて間もない頃のモノから中学校の卒業式のモノまで、結局本棚にあった三冊のアルバム全てを見終わった時には2時間以上経過していた
見終わったアルバムを本棚に戻した沢村は満足げに息をつき背中をベッドに預ける


「あー、楽しかった」
「そうか?」
「うん、ていうかさ、あんたって子供の頃からあんなムカつく笑い方してんのな」


写真を思い出してかクスクスと笑いながら話す沢村


「てめっ、そんなこと言うのはこの口か?」
「ちょ、何すん………ん!」
「はっはっはっ、余計なこと言う口には蓋をしねぇとなぁ」
「っ、このバカ御幸っ!!」


後ろをベッドに阻まれ、前から被さる様にして迫られては沢村に逃げ場はない。かといってここで流される訳にはいかないのだ。
なにせここは御幸の実家。
いかがわしいことを御幸の家族に見られたらそりゃもう大変な事になる。
なんとかして切り抜けねば、と沢村が考えに考え導き出したのは、


「み、御幸っ!」
「ん?」
「お、願いがあるんだけどっ…」
「何?」
「か、帰ったらアルバム買って!!」「………は?」



御幸の気を逸らすこと。

てっきり押し倒しているこの状況をやめろ、というようなお願いだと思っていた御幸も予想外の内容に体を起こし、沢村を見る。



「だ、だめ?」
「い、や別にそれ位いいけど、……なんで?」
「う、……や、その…」
「栄純?」


当然の御幸の追求になぜだか頬を染め、視線を逸らす沢村
暫しの沈黙のあと、だって、と小さな声で紡がれた言葉は、御幸の理性を打ち崩すには十二分過ぎる破壊力を有していた


「……だって、あんたのアルバムに俺がいないのって………なんか、やだ」
「っ!?」
「だから、帰ったら写真撮って、」


アルバムを作る、そう言った沢村を御幸は本能のままベッドに引きずり上げ荒々しく口づけた


「んんっ!?」


当の沢村は折角あんなに恥ずかしいことを言ったのになんで、と自分の発言が御幸を煽っていることに微塵も気がついていない。
なんとか御幸を押し止めようと胸板をばんばん叩いてみるが全く意味をなさない。本格的にマズイと思ったその時、




「一也、ケーキ持ってきた………」




カチャリと部屋の扉が開き、御幸の母親がケーキの乗ったトレー片手に入って来た




「っ!!!!!!!!!?」



沢村が悲鳴にならない悲鳴をあげてベッドから跳ね起きたのは言うまでもない。真っ赤にした顔を一瞬で真っ青にして口をぱくぱくさせている。
しかし部屋に落ちたなんともいたたまれない空気を破ったのは、



「あら、うふふ、ごめんなさいね、お邪魔だったかしら?」



いたたまれない空気を作った張本人のそれはもうのんびりとした声だった。


「一也、あんまり沢村くんに無理させちゃ駄目よ?大事なピッチャーさんなんだから」
「わかってるよ。…ああ、ケーキそこ置いといて」
「え、え?」
「はいはい、あら、そうだ沢村くん」
「っ!?は、はいっ」
「ゆっくりしていって頂戴ね」
「え、あ、はいっ、ありがとうございますっ」


あんな状況の後に和やかに会話する親子と、自分にかけられる優しい言葉に沢村の頭は破裂寸前である。助けを求める様に御幸の服の裾を掴み、半泣き状態だ。



「あらあら、可愛いわ〜、沢村くんみたいな子がお嫁さんに来てくれたら嬉しいのに」
「な?可愛いだろ」
「ホントに。流石私の息子。見る目あるわねぇ」


そんな沢村を尻目に交わされる親子の会話にさすがの沢村も違和感を感じた。


「え、ちょ、嫁って、えぇ?」
「あれ?言ってなかったっけ?」
「な、何が!?」


混乱の極地に立たされた沢村に御幸があっけらかんと言った言葉は沢村にこれ以上ないくらいの衝撃を与えた。


「俺、お前と付き合ってんの親にカミングアウト済みなんだけど、」
「、なっ……………………………なななっ!?」
「あーごめん、言ったつもりでいたわ」



はっはっはっと笑う御幸にふつふつと怒りが込み上げる沢村
しかしその怒りも御幸がいつものムカつく笑みを浮かべて囁いてきた言葉によって跡形もなく消し去られてしまった。



「まーそういうことだから、10年後も20年後も俺のアルバムにお前いるのは確実だぜ?」
「っ!!」
「よろしくな?、栄純」










未来の約束
(今日も明日も10年先も)



end.

3500hitキリリク
『御沢のどっちかの家で自宅デート』
でした。
リクエストくださった方ありがとうございました!!
ご要望に応えられた気は全くしませんが(←)こんなんで宜しければお持ち帰り下さい!!
長い間お待たせして申し訳ありませんでしたっm(__)m

少しでも楽しんで頂けたら幸いです。この度は3500hit&リクエスト、本当にありがとうございました!!

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