人獣シリーズ

□春色マーチ
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蕾が少しずつ大きくなってきた桜並木を二つの影がぽてぽてと歩いている。
小さな影の方は半ズボンにフード付きの薄いトレーナーという出で立ちだ。猫耳の上からフードを被った少年はいたくご機嫌の様で、歩くというより跳ねるといった感じで前に進んで行く。そんな少年、栄純を楽しそうに眺めながら歩く大きな影、御幸は逆向きに被った帽子に細身のジーンズ、ゆったりしたパーカーとラフな格好である。にも関わらず、すれ違う女性が必ずと言っていいほど振り返ってゆく。しかし全く気にかける事なく歩く御幸はふと、歩みを止め前を行く少年を呼び止めた。



「栄純!」
「んにゃ?」



呼び掛けにくるりと体ごと振り向いた栄純は、トテトテと御幸の元へ走り寄ってきた。




「なに?」
「ほら、アレ」




そう言って御幸が指差す先に目を向けると栄純の顔はパァッと明るくなった。




「春っちー!!!」




50m程向こうから歩いてくるのは栄純の友人の春市とその飼い主で御幸の後輩でもある降谷だ。
栄純の呼び声にむこうの二人もこちらに気が付いた様で、春市が駆け寄って来た。




「栄純くん!!」
「春っち、一昨日ぶりー!!」
「栄純くん達もお散歩?」
「うんっ!春っちも?」



楽しそうに話し始めた二人を眺める御幸に少し遅れてやってきた降谷がペこりと頭を下げる。



「よぉ、降谷。意外だなーお前が散歩するなんて」
「………春市が行きたいって」
「はっはっはっ、なに、署ではクールで通ってるお前も愛描には頭が上がんねぇってか?」
「……デレデレと職場でのろける御幸先輩に言われたくない」



心底楽しそうに話しを振る御幸にぽつぽつと返事を返す降谷の服の裾がくいっと引っ張られた。




「暁くん、暁くん、このあと栄純くん達と一緒にお散歩してもいい?」



視線を下げた先で自分をじっと見つめる瞳を見た降谷はちらり、とニヤニヤこちらを見ている先輩に視線をやり一つ小さな溜息をついた。



「別に、いいよ、春市が行きたいなら」
「ホントに!?ありがとう!」




嬉しそうに栄純の方へ走って行く春市をどこか優しい瞳で見つめる降谷に御幸の笑みは深くなる一方だ。




「…なに、にやけてるんですか」
「いやいや、別にぃー?」



くくくっと笑いを堪える御幸に眉間の皺を深くした降谷は前の猫を追いかけてすたすたと歩いていってしまった。



「はぁー、まさか降谷がねぇ」



ひとしきり笑った御幸も前の3人の方へ歩きだした。






















「御幸ー!!」


しばらくの間転げる様にして歩く猫二人を見ながら、御幸と降谷は仕事の話などをしていたが前から大きな声で呼ぶ栄純に話を切り上げ、立ち止まっている二人に近づいた。



「どうした、栄純」
「………何かあったの」


ひょいっと栄純を抱き上げながら問えば、一緒に来た降谷も隣で同じ様にして春市に尋ねている。



「お魚クッキー!!」
「……は?」
「あそこ!!お魚クッキー欲しいっ!!」



あそこ、あそこと栄純が指差す方向を見れば確かにそこにはお魚クッキーの専門店が。



「春市も欲しいの?」
「え、あ、…………うん、ちょっとだけ、欲しい、かも。っあ、で、でも駄目なら全然っ、」
「いいよ、買いに行こうか」
「いいの!?」
「うん」
「ありがとう、暁くん!」



パッと明るい笑顔を見せた春市の頭を降谷がくしゃりと撫でれば、照れ臭そうな笑みが返ってきた。



「御幸っ!!俺も!俺も頭くしゃってして!!」
「ん?なに、栄純も頭撫でて欲しいの?」
「うん!!くしゃってやって!!」



春市を見て羨ましくなったらしい栄純が御幸にせがむが、御幸は少し考えてからニヤリと笑った。



「なぁ栄純、頭撫でんのもいいけど、もっと良いことしてやろっか?」
「もっと、良いこと?」
「そ、良いこと。」
「やって!!やって!!」
「じゃあ目ぇつぶって?」



御幸の言葉に従い素直に目を閉じる栄純。そんな栄純の前髪をサラリとかきあげた御幸はそこにそっと唇を寄せた。



「え?」



額に触れた温もりに栄純が目を開けたのと同時にチュッという軽いリップ音を発てて御幸は唇を離した。



「な?良いことだったろ?」



ニヤリと口角をあげた御幸に、自分が何をされた漸く理解した栄純は真っ赤になって、両手をパチンと額に当てた。



「な、ななななななっ!!?」



予想以上に可愛い反応を見せる栄純に一層顔がにやける御幸に後ろから冷たい声が投げ掛けられた。


「なに、やってんですか?ここ道のど真ん中なんですけど」
「なにって、愛を込めたキス?」



振り向きながら答えれば呆れ顔の降谷と、その腕の中で栄純と同じくらい真っ赤になった春市。
御幸は未だに自分の腕の中で真っ赤な顔のまま、なにやらにゃーにゃー言っている栄純の頬にもう一つキスを落として、




「いいだろ?別に。これが俺なりの愛情表現なんだよ」






今度こそ完璧にフリーズしてしまった栄純を腕に彼の大好物の専門店へと優雅に足を進めた。







後に残された降谷は恥ずかしさに自分の肩に顔を埋めて真っ赤になっている春市の髪にそっと、気付かれない様に唇を寄せ、満足げな笑みを浮かべ御幸のあとを追った。









春色マーチ




end.






しなの様リクエスト『春うらら後の外デート』、のはずだったのに、あれ? おかしいな?全然デートしてないですね。すみません、本当に申し訳ないですm(__)m
しなの様が降春お好きだと聞いて舞い上がった+ホワイトデー企画に出したお魚クッキーの再登場希望にテンションが上がった事が要因です、はい。
お気に召しませんでしたらいつでも書き直しますので。なんなりと。
うぅ、こんなモノで良ければしなの様のみお持ち帰りして頂いて結構です!!
素敵なリクエストありがとうございました!!今後もROMANCE BLUEをよろしくお願いします!

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