短編 その他
□しゅに、染まる
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「悠太ー?」
日もすっかり傾いて、月が顔を出す準備をしている放課後。
教室にいる人はまばらで、殆どが帰路についているであろう時間帯。
双子の弟に頼まれて彼の兄の部室を訪れた。
畳の良い薫りに目を閉じる。
「貴女は…ヨシノさん、でしたか 」
「あ、十先生。お久しぶりです」
聞き覚えのある声。
ふと見覚えのあるスキンヘッドに会釈をする。
茶道部の先生の十先生だ。
たぶん会うのは一度皆と見学に来たときくらいなのに、名前を覚えられていたのに驚いた。
「あの、悠太くんは…」
「ああ、彼なら今…」
「ヨシノ」
「おー悠太。着物ー」
「なにしてるの?」
なにしてるのとは失礼な。君を迎えに来たんじゃないかとまだ着物姿の悠太に伝えると、さほど慌てたようすもなく十先生に断りをいれて奥の方に引っ込んでいった。
「ヨシノさん」
「はい?」
さっき会ったときのように、ふと声をかけられた。
穏やかに喋る人だな、と思った。
「貴女は浅羽くんの…」
浅羽は二人いるんだが、この場合悠太のことだろうか。
「いえ、何でもありません」
「へ?」
「出過ぎた真似をするのは、あまりよくないでしょうから」
「はぁ、」
十先生って、よくわからない人だ。
ニコニコする十先生を見て首をかしげていると、悠太が帰ってきた。
「おまたせ」
「うん、待った」
「ごめんごめん」
謝るつもりもハナからないだろうが、と脇腹をつつきながら十先生と別れた。
隣を見上げたら、橙色に染まりつつある空を背景に悠太が微笑っていた。
「なに?」
「いや、べつに?」
また来たよ。
今日二回目のよくわからない反応。
「悠太って十先生に似てるかも」
「なに?何ですか急に?」
「いや、そういえば悠太ってあんまり自分の思ってることを表に出さないから、よく分かんないなぁって」
「それは俺がなにも言い出せない優柔不断な男ってこと?」
「いやいや、けなしてるつもりはないよ全然」
ちょっとムッとされた。
ムッとするポイントだったのか今の。
「悠太はさ、気付くと周りに合わせちゃうとこあるじゃない?」
「うん?」
「あたしからはそう見えるの。だから、悠太は何したいとか周りを気にかけることとか、言いたくても言えないんじゃないかなってたまに思う」
「盗み聞きしてたの?」
「ちっ、違う!聞こえてきたの!」
くそぅ、
さりげなくを装うつもりだったのに。
「でもね、あたしは」
あー
頭がこんがらがってきた。
今時分が何を口走っているか判りゃしない。
「そんな考え方出来る悠太はすごいと思うし、あたしは悠太のそこが好きだからというか何というか…あー、えっと、何が言いたいかと言うとですね…」
「ヨシノ」
「は、はいっ!」
何で敬語なんだ自分…。
「ありがとう」
そこにあったのはオレンジなのか赤なのかいまいちわからない色の悠太の顔。
自分はもっと赤いんだろうなぁ、なんて考えながら前を向く。
ひとりでに繋がれていた右手に熱が集まっているのにも気づかずに。
しゅに、染まる
(うまく言えなかった…どうしよう)
(大丈夫。もう伝わってるから)
……ーーー
10巻を読みながら思い付きました
何が言いたかったんだ(;´д`)
朱を手と掛けてみました。
わかりづらい(-""-;)
特に意味はありません←
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