短編 テイルズ
□騎士VS告白
1ページ/1ページ
「ようやく、見つけた」
ほっと息をついた瞬間、
私の意識は闇に沈んだ。
……………………………
気が付けば、私は騎士団内の自分の部屋で、ベッドに横たわっていた。
いつの間に、どうやって移動したのか記憶にないし、身体中がとてもだるい。
外は既に真っ暗で、何時間寝ていたのかもわからない。
ええと確か、町に魔物の群れが向かってて、鬼神化(仮)して、隊長と凛々の明星のみんなが来てくれて、それから…?
「下町は…っ!」
「うわっ!びっくりしたー。まだ寝てなきゃダメよ」
勢い良く起き上がろうとしたら、身体中に鈍い痛みが走る。
声にならない悲鳴が口から漏れる。
「…レイヴン。」
「半日寝てたのよ。おっさんびっくりしちゃったわ」
「下町は…みんなは、」
「大丈夫よ」
半分布団から浮いていた身体を、レイヴンによって布団に戻される。
下からレイヴンを見上げるという状況はかなり珍しい。
まじまじとレイヴンの顔を見上げていると、言葉の先を促されていると思ったのか、レイヴンは私が寝ている間の出来事を話し始めた。
「大体の敵はノアルちゃんが倒しちゃってたから、討伐はすぐ終わったわ。ただ、ノアルちゃんが倒れちゃったから、喜ぶ間もなくおっさんは帝国騎士団までノアルちゃんを運ぶ任務に任命されたって訳」
「…すみません。重かったですよね?」
あの時は鎧もつけていたし、隊服もお世辞にも軽いとは言えない。
言うまでもなく、私自身の重さも…。
「なんのなんの。青年よりははるかに軽かったわよ。これでも、鍛えてますからね」
「…ふふ。そうですか」
「やっと笑った。ノアルちゃんせっかく可愛いんだから、もっと女の子らしくしなきゃダメよ?」
「…おだてたって何も出ませんよ」
「可愛い。」
お世辞だとは分かっていても、頬が熱くなってしまう。
そういう意味じゃないんだって。
相手はレイヴンだぞ。
しっかりしろ自分!
「お世辞じゃないわよん?おっさんは確かに女の子が好きだけど、ノアルちゃんはずば抜けて綺麗よ」
「…どうも」
やめてくれ。
心の中で叫ぶが、レイヴンにその声が届くはずもなく。
というか、心を読まれたかと思った。
とても居づらくなったので、とりあえずゆっくり体を起こす。
「ちょっとちょっと、まだ寝てなさいって」
「いえ、もう充分休んだので。それに仕事が」
「もう済ませちゃったわよ?」
「……え?」
「伊達に騎士団に長く勤めてないわよ。あんなのちょちょいのちょいよ」
「まさか、レイヴンが?」
「おうよ!」
「…ありがとう、ございます」
さすが未だにシュヴァーン隊とユニオンの幹部を掛け持ちしているだけある。
レイヴンの仕事の早さに舌を巻いていると、レイヴンはニコニコしながら私を見つめてくる。
…正直、とても居づらい。
「レイヴン」
「なーに?」
「そう見られると、とてもやりづらいんですが」
「ねえ、ノアルちゃん」
また、あの顔。
見てるこっちが辛くなるような、悲しさと懐かしさと、少しだけ悔しさを含んだような表情。
そっと握られた手を振り払えず、むしろ力を込めてしまう。
「本当の騎士には、なれた?」
「…今なら、本当の騎士の意味、なんとなくわかります。私が本当の騎士になれているかどうかは別ですけど」
「大事なのは、なるかなれないかじゃない。なろうとしているかどうかよ」
「…っ」
「まあ、これもあいつの受け売りなんだけどね。おっさんは結局、本当の騎士にはなれなかったんだけど」
「…え?」
「ノアルちゃんもご存知の通り、ダミュロン・アトマイスは一度死んだのよ」
「どういう、ことですか?」
それから、レイヴンの口から紡がれた話は、私がまだ何も知らない商人の娘だったときから最近のアレクセイ元騎士団長閣下の謀反事件にかけて、レイヴンが、ダミュロンからシュヴァーンに、シュヴァーンからレイヴンに変わるまで、普段のレイヴンからは考えもつかないような闇の部分を垣間見た気がした。
言葉を紡ぐレイヴンの表情は、隠せてるようで隠せていない様々な感情が入り交じった表情で、何故か鼻の奥がツンとした。
私が悲しむことではないんだけど、レイヴンの表情から感情が私の方に流れ込んでくるような、不思議な感じ。
「…どうしてノアルちゃんが泣いちゃうのよ。おっさんが泣かせたみたいじゃない」
「知りませんよ。あなたがそんな話を聞かせるからいけないんじゃないですか。私そういう感動物語に弱いんですから。どうしてくれるんですか」
頭にはたくさんの皮肉が浮かんでいたけれど、そのどれひとつとして口から発せられることはなかった。
口から漏れるのは嗚咽ばかりで、何も声をかけられない自分が不甲斐なくて、ただただレイヴンの袖を掴むので精一杯だった。
「…ノアルちゃん」
「ごめんね」とレイヴンは小さく呟く。
何のことかわからずただ涙を流すだけだった私を、レイヴンはゆっくり抱き寄せる。
ふわり、とレイヴンの匂いが鼻の奥に広がって、少しだけ気持ちが落ち着く。
それでも涙だけが止まらないのは、レイヴンの無気力で空虚で、それでもって悲しくて悔しい、そんな人間らしい感情が伝わってきたから。
「嫌だったら、突き飛ばして頂戴」
私は首を横に振って、レイヴンの背中に手を回した。
恋人でもなんでもない、ただの騎士とギルドユニオンの幹部。
それでもレイヴンを受け入れられたのは、同情とか彼が幼馴染みの仕事仲間だからとか、初恋の人だからとかじゃない。
きっと、彼が彼だから。
私は、この人が好きなんだ。
その証拠に、特に長年の付き合いというわけでもない他人に抱きしめられている状態で、こんなにも安心しきっている私がいる。
「レイヴン、貴方がすきです」
ラウラ、断っておくがこれはカッとしたから行動するわけじゃない。
ラウラが聞いているわけでもないのに、頭の中で断りを入れる。
こんなに緊張しない告白は生まれて初めてかもしれない。
だってレイヴンの腕の中がとても心地よすぎて、すっかり落ち着いてしまっている私は本当に告白したのかすらも怪しい。
「ノアルちゃん?それ本気?」
「…本気です。同情とかそんなんじゃありません」
ぐいぐいと体を離そうとするレイヴン。
緊張してないとはいえ流石に恥ずかしさはあるから、離してなるものかとレイヴンの背中に回る手に力を込める。
「おっさんは嬉しいけど、こんなんよ?胡散臭さマックスよ?それでもいいの?」
「わかってます」
「ルーキー君とかユーリほど顔もかっこよくないし、年だって若くないし、年の差とか言われちゃうのよ?」
ぐいぐいとなおも体を離そうとするレイヴンに、私が折れて体を離してやる。
「くどいです。レイヴンは私がすきなんですか、すきじゃないんですか?」
「…ほんと、男前なんだから」
キッと見上げたレイヴンの顔は、心なしか少し赤い。
それはきっと、私の自惚れなんかじゃない。
だってレイヴンが見たこともないような、優しい表情をしているから。
今日はレイヴンの見たことない表情ばかり見ている気がする。
「すきだよ。こんなおっさんでよければ、貰ってあげてください」
「ふつつかものですが」と頭を下げるレイヴン。
私より大きいくせに、ちっちゃくお辞儀をする様子がおかしくて、少し笑ってしまう。
それじゃまるで結婚のようじゃないか。
そんなツッコミは、降ってきたレイヴンの唇によって、胸の奥に押し込まれてしまった。
騎士VS告白
「ラウラ、この書類を会計に…」
「ノアルちゃーん!愛しのおっさんが会いに来たわよーん」
「…これは会計に回しておけばいいですね?」
「…うん。ありがとう」
「ラウラちゃーん、今日も綺麗ねぇ」
「では、小隊長。失礼します」
「んもう。つれないわー」
「…レイヴン」
「妬いた?妬いちゃった?」
「帰れ!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
とりあえずまとまりました(?)
まとまった感ないですね(;´・ω・)
気が向いたらまた短編やら書きます