短編 OROCHI

□赤鬼の目にも涙
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なんだこの状況。
あたしの背中には、暖かい酒呑童子さんの剥き出しの胸が当たっていて、
酒呑童子さんのものすごく逞しい腕があたしの貧相な胸の前と無駄にふくよかなお腹の前に回されて、あたしは捕獲された宇宙人さながら、抵抗なんて出来ない。

心臓?そんなもん、とっくの昔に破裂寸前ですよ。ピーク越えてます。

きっと今薄皮一枚で拍動してる。







「…あのぅ、酒呑童子さん」

「……なんだ」

「酔ってらっしゃいますか?ていうか酔ってますよね」

「…酔ってなどいない」





いやいやいやいや。
普段の貴方だったらあたしを後ろから抱き込むなんて破廉恥なことしませんから!

とは言えず、酒呑童子さんの逞しい腕から逃れようともがくも、力の差は火を見るより明らかで。


さらに強く抱き込まれてしまった。





「ヨシノ…」

「ぅ…はい」





耳元で切ない声で囁かれて、無下にできるやつなんて絶対いない!
反則だ!

なんて思いながら、抵抗するのを止めたあたしを抱き締めながら、酒呑童子さんは悲しそうに言った。





「私は、やはり恐ろしいのか」





それは何処かで聞いた言葉。

そうだ。
あたしがこの世界に来たばかりで、話せる人なんて太公望さんか竹中くんかかぐやさんあたりだった、さながら転入したての帰国子女みたいだったころに、酒呑童子さんがどうしても怖くて(そりゃあ鬼なんて始めてみましたから!)
そうしたら、酒呑童子さんの方から話し掛けてきてくれて、竹中くんの助けを得て見かけによらず普通の人だってことを知った。

お陰で人生相談や雑用の手伝いその他もろもろまで手伝ってくれるような仲になっていた。





「どうしてですか?」

「……」

「なにか、言われたんですか?」





ぴくり、と回された腕が動いた。
僅かな変化でも、戦場以外では一番近くにいる分敏感に気付けるようになっていた自分に驚いた。


酒呑童子さんは、意外と繊細だ。
同じ陣にいる人たちでも、鬼の彼を怖がっている人も居なくはない。

それは先入観というか偏見というか、そんな感じの人間特有(らしい)もので
、それはどうしようもないことなんだけど、傷付くものは傷付く。





「大丈夫ですよ。大丈夫」






根拠のない答え。
だけど、それは一番彼にとって嬉しい言葉であってほしい。

そう思いながら回されたままの腕をポンポンと叩いた。
ぎゅっと回された腕に力が加わって、さらに密着した。

背中越しに、酒呑童子さんの拍動が聞こえる。
それは、とても嬉しいことで。





「あたしは、酒呑童子さんがやさしいひとだってこと知ってますから」

「……私は鬼だぞ?」

「あう…優しい鬼です!」

「…ふっ。そうか」





やはり人の子はおもしろい、とか言いながらあたしの首筋に口付けを落とす酒呑童子さんにどぎまぎしながらも、その声が穏やかになったことに嬉しくなったあたしは、
この心優しい鬼が心底好きなんだなぁと実感していた。






赤鬼の目にも涙


(ヨシノ)

(はい?)

(お前の将来。鬼の嫁、というのも悪くはないぞ)

(…………はい?)

(私が貰ってやろう)

(ばっ!は!?なにっ…えええええ?!)




……ーーーーー

あー可愛い

酒呑が可愛すぎる今日この頃です

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