短編 OROCHI

□疑心アンティパスト
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十数畳半の私のお城。
決して広くはないけど、実家の次にあたしがくつろげる場所に居候がやってきたのはつい最近の事。
それも、まさか自分が現熊本城の城主だなんて名乗るものだから、最初はひどく悪質な、それもかなり手練れのコスプレイヤーさんの嫌がらせかと思ったものだ。
ところがよくよく話を聞いてみると、彼はまだ城どころか親(秀吉夫婦)離れをしていないらしく、おろち?が作った混沌の世界に飛ばされ三國時代の人だか仙人だかと世界を救うために戦っているのだとか。
はいそうですかと素直に聞き入れられる内容ではなかったが、とりあえず頷いておかないと、清正さん(仮)の…ね。
鎌で首をぷっつん、とか洒落になんないからねうん。

とまあ、そんな感じで警察に付き出すわけにもいかず、
(鎌持った人連れてったあたしが疑われかねない)
かといって相談できる人もいない。
(あたしが痛い目でみられるのは目に見えてわかっている)

そんでもって、テレビだか電気だか、現代科学を目の当たりにする度に清正さん(仮)がものすごいリアクションを見せてくれるものだから(テレビ壊されそうになったときはガチであせった)さすがに信じざるを得なくなってきている。



「清正さん。夕飯何が食べたいですか?」



基本考えるのが苦手なあたしは、得意のスルースキルを発揮してごちゃごちゃしたことはスルー。
親戚の子を預かっているような感覚でいる。というか、そうでもしないとあたしがもたない。



「お前は、なんでそこまでできる」

「へ?」

「会ったこともねぇ人間を家に住まわせるだけじゃねぇ、飯まで食わせんのは、普通のやつのすることとは思えねぇんだが」

「あたしだって、別に好きでおいてる訳じゃないんですよ?」

「じゃあ、なんでだ」

「清正さんの話を全部信じた訳じゃないですけど、少なくともこっちの世界についてあまりご存じないように見えたので。今の清正さんを世間様にさらして、たぶん大問題になったとき、一番怪しまれるのはあたしですし、何より良心が痛みます」



そう、これはあたしのエゴ。
自分にかかる火の粉は最小限にとどめたいし、平穏にき生きていたい。
それに、独り暮らしは寂しい。



「…変な奴」

「え?」

「あれがいい。お前が最初食ってたやつ」

「あぁ、ハンバーグのことですか?」

「そうだ。それがいい」

「わかりました。その代わり、手伝ってもらっても?」

「安い用だ」



*疑心アンティパスト*



(おい、この野菜を切ればいいのか)


(そうで、す…けど)

(けど?)

(何を、もってらっしゃるのですか?)

(なにって、鎌だが)

(鎌、は、普通、料理に使わないはずですけど)

(……そう、なのか)



幸先不安でたまりません


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アンティパスト=前菜
だそうです


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