短編 OROCHI

□強がりな泣き虫
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割れた地面。
赤く面妖に光る山。

それらを眺めながら凌統は、三蔵法師の言葉を思い出していた。


遠呂智が作った世界。
その中にも、美しいものは存在する。
彼女はそう言った。



『この地面さぁ、地味に暖かくて、寝心地抜群なのよね』



何処かの少年軍師が聞いたらひどく共感しそうなことを宣っていた異世界の少女の言葉と重ねる。
対称は違えど、前向きな姿勢はどことなく三蔵法師のありがたいお説教と同じように思えて、一人くすりと苦笑を漏らした。

変な女。
凌統の彼女に対する第一印象はそれだった。
異世界の、それも戦など存在しない平和な世から急にこの世界に呼び寄せられた彼女は、臆することも泣きわめくこともせず、ただただ笑っていた。



「あはは。あたし、順応性高いんですよ。まーちょっとは驚きますけど、うだうだ悩んでたって仕方ないじゃないですか」



彼女はそう言って強がって笑うのだ。
凌統の中で、彼女はいつしか変な女から、気になる女へと変わっていた。
目を離せば戦線から離脱していて、林の中で妖魔に追い回されていたり、腰から刀が抜け落ちていることに気付かないまま妖魔の群れのど真ん中に飛び込んで行ったり、うっかり司馬師の肉まんを踏んづけたり。
とにかく目を話しておけない存在へと変わっていく中で、凌統の心の葛藤など露知らず、すでに凌統の目が届くところに彼女の姿はない。
色んな人々から(不本意ながら)彼女のお目付け役を仰せつかっている凌統は、どうしたものかと頭を抱ていた矢先。



「凌統!」

「…甘寧?」



息を荒くした甘寧が凌統に近付いてきた。
こんなに彼が慌てているのはひどく珍しい、と感心していたのもつかの間、彼の口から出た言葉にまさか自分もこんなに慌てるとは思いもしなかった。


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