短編 OROCHI
□泣き虫らんでぶー
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馬の蹄が地面を蹴る音が辺りに響く。
現代日本じゃ見ることもないような大きな木が脇を通り抜けていく。
朝早く起きたばかりのせいかみるみる変わっていく視界に、焦点が合わない。
というかそれ以前に、凄い風圧で目を開けられないっていうのが本当。
「さっ、真田さん!早い!早いです!」
「すまないヨシノ殿!少し我慢してくれ!」
「そんなに急いでどこに行くんですか!というか、何故あたしまで!?」
物凄い風圧に耐えながら訪ねたあたしの質問に、後ろで手綱を握る真田さんは無言で馬を走らせた。
え?無視?
スルースキル発動なんですねわかります。
ちょっと傷付いたよぎりぎり十代ガラスのハートのあたしの心が!
「…まずいな」
「へ?」
「ヨシノ殿。私に掴まってください」
「はい?」
「少し飛ばします。ヨシノ殿を落としたくはないので」
当たり前だ落とされてたまるか!と叫びたいのをこらえて、真田さんの言葉に頷いた。
とはいっても、あたしは現在進行形でこの駿馬ともいえるお馬さんの逞しい首に掴まっているわけで、馬になんて乗ったことのないあたしは動いてる(それも道路交通法違反レベルのスピードで)馬の上で体の方向を変えるなんて心臓を手でひきちぎるくらい勇気がいった。
ええいままよ!と心のなかで叫びながら、結構な勢いで真田さんの胸にしがみついた。
けど流石は戦国武将。
片手を手綱から離して、あたしの肩をがっちり掴むと、「はっ!」と声を挙げて馬を走らせた。
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