月は歪んだ

□39:月は歪んだ
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『…ただいま〜』


なんとなく沈む気分で帰宅した私を出迎えたのは、なんだかものすごく驚いた顔をした沖田さんだった。


「っ、あぁ、おかえりなさい。」

『?、どうかしたんですか?』

「いや?なんでもないよ」


明らかに隠し事をされた感じではあったが、なんでもないと言う以上、追及するのも気が引けた。


「美憂ちゃんこそ、浮かない顔してるね。どうかしたしたの?」

『……、』


一瞬、話そうか話すまいか迷った。
でも、今のままではいられないことも事実。


『実は、母が退院…家に帰ってくるんです。それで…』


思わず言い淀む。


「へぇ、よかったね。元気になったんだ。
……それで?この家には僕がいるから、どうしようか悩んでたのかな?」

『はい…母に、沖田さんを何て説明しようかと思いまして…』

「…お母さんはいつ帰ってくるの?」

『それが…明後日でして…』

「ふーん、そっかぁ……確かに、僕がいたらお母さんひっくり返るほど驚くだろうね」

『そうなんですっ、って、え?!沖田さん!!?』

「?」


(沖田さんが透けてる?!?!)

疲れて目が霞んでいるのかと両手で目を擦った。
ーーー次に見たときには何事もなかった。


「どうしたの?美憂ちゃん」


不思議そうな顔をする沖田さんに、いま起こったことを話そうか一瞬躊躇する。
私の見間違えかもしれないし…と思いつつも、つい答えてしまった。


『っ、いえ……、今ちょっと、沖田さんが透けてた気がして…すみません、変なこと言って』

「え…」


正直に打ち明けると、沖田さんは先程と同じように、目をこれでもかと開いて驚愕の表情をみせた。


「………やっぱり?そう見えた?
実はさっき、僕も透けてることに気がついたんだよね。
…元の場所に帰る前兆ならいいんだけど」

『そう、なんですか……そう、なら、いいんですけど…』


本当に帰れるのかな…と心配になってしまう。
もしそのまま存在がなくなってしまったり、また別の場所に飛ばされたりしたら…と思うと、急に不安が押し寄せた。


「なにも美憂ちゃんが消えるわけじゃないんだから、そんな不安な顔しなくてもいいんじゃない?僕は別に平気だよ」

『、はい…ありがとうございます…』

「……でもさ、透けてるってことはやっぱり消えるんだとは思うんだ。
…もしかしたら、お母さんが帰ってくるまでが期限なのかもね?」

『え…、じゃあもう明後日には消えるかもしれないってことですか!?』

「わかんないけどね。
でも、ここに来てから数日、なんにもなかったのに、突然透けだしたからさ。
もしかしたら神様が、僕とお母さんを鉢合わせないようにしてるのかもね」


沖田さんは、笑っていた。

きっと、私をこれ以上不安にさせないように。

…でも、沖田さんにも不安な気持ちがあるのだろう。
帰れるかも、という期待からくる笑みではなかった。















(そりゃそうだよね)
(だって帰れる保証はどこにもないし)
(また別の世界に行ってしまうかもしれないし)
(もしかしたら…)




死んじゃうかもしれないし…?


end
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