月は歪んだ
□38:月は歪んだ
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沖田side
美憂ちゃんがお母さんのお見舞いに行っている間、一人で暇だ。
暇なときはテレビをつけてボーッとしたり、自動車が走る窓の外を眺めたりしている。
これが先の日本だと言うのだから不思議な気持ちになる。
ここには近藤さんはいないし、口煩い土方さんもいない。弄って遊ぶ人もいないし、何より平和だ。
美憂ちゃんもからかい甲斐はあるけれど、家主だし、本当によくしてもらってるから、あんまりいたずらするのもさすがに気が引ける。
ふと冷蔵庫からお茶を出し、ガラスのコップに注いで考え事に耽る。
(この生活にも随分慣れちゃったなぁ…)
最初こそありとあらゆるものに驚いていたけれど、それもある程度使いこなせるようになってしまった。
便利だなぁと思うものもいろいろあって、新選組の屯所にも欲しいなって思ってしまう。このガラスのコップも綺麗だし。
僕が帰るときに一緒に持ち帰れないかな?…とか。
…あぁ、でも、そもそも僕自身、帰る方法すらわかってないんだった。
ーーーそんなことを思ったときだった。
『っ………?!』
(透けてる……?)
ガラスのコップを持つ手が、確かに透けていたのだ。
思わず立ち上がり、首下から足先まで舐めるように見た。
ーーー確かに透けている。
それも身体だけじゃない、服ごと透けているのだ。
もしやこのまま消えてしまうのでは…?と思えるほど、突然に事は起こった。
(この世界から消えることで、元の場所に戻れるのかな?)
元の場所に戻れるかなんて確証は当然ないし、このまま消えるのが正解なのかもわからない。
ーーーもしかしたら、元の場所に戻れるかも…という淡い期待と、言い様のない不安に襲われる。
元の場所に戻ったとき、そこにいる僕はーーー
ーーーーーーーーーーーーガチャリ。
玄関の鍵の開く音がし、家主が帰ってきたことを告げる。
再度見たときには身体は元通り、透けてなどいなかった。
(透けた身体は、僕がこの世界から消えることを暗示している気がした)
(もしかしたら元の場所に戻れるかもしれない)
(新選組の屯所に戻れるのかはわからないけど)
(元の場所に戻ったとき、そこにいる僕は…)
生きてるよね?
to be continue...