月は歪んだ

□36:月は歪んだ
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沖田side


「沖田さん、ちょっと留守番お願いしますね」


朝、美憂ちゃんはそう声をかけてきた。


『うん。美憂ちゃん、どこか行くんだ?』

「そうなんです。今日は母のお見舞いに…」

『ふぅん…そっか、いってらっしゃい。』


母。

この家に来てから美憂ちゃんのお母さんやお父さんの姿は見ていない。
僕が時を越えてきた日、「この家には私しかいない」と教えられた。

お兄さんである透くんとはひょんなことから面識を持ったが、彼女が家族について話さないなら聞かないようにしようと思った。
きっといつの時代だって、身内のことは相手が話すまで聞かない方がいいに決まってるんだ。
触れてほしくない領域がどれくらいなのかわからないからね。


「沖田さん。いつも通り、インターホンが鳴っても無視してくださっていいので」

『はいはい、わかってるよ』

「じゃあ行ってきます」


お見舞い。

お見舞いということは、彼女の母はどこかで療養しているということだろうか。


さみしくは、ないのかな―――彼女も、その母も。

僕だったらたとえ病状が良くならなくても、大好きな人たちのところで最期を迎えたいな…と思ってしまうなぁ。


この家じゃ療養できないほど悪いのかな…と考えたところで気が付いた。

もし彼女の母が帰ってきたら、僕はここに居られないかもしれない。
それもそうだ。娘の連れ合いでも何でもない男が家にいるなんて誰が許すだろうか。

透くんには何とかわかってもらったが…


そう思ったら僕は最低ながらも、彼女の母が帰ってこないことを祈った。
まだ…ここを追い出されたくない、その一心であった。























(最低だ)
(わかっている。でも…)
(彼女は見知らぬ怪しい僕を置いてくれた)
(その心地よいこの場所を、まだ―――)




失いたくないんだよ?


to be continue...
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