月は歪んだ

□35:月は歪んだ
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剣道を指導する沖田さんを見ていると、やはり江戸時代の人なんだな…と再確認した気がした。

あれだけイケメンで何事もスマートにこなし、未来に来たというのに動揺する素振りもほとんど見せなくて…
すぐに現代に馴染んでいたけれど、あの猟奇的な瞳は現代にはそぐわない。



私は…少し、怖いのかもしれない。


まだほんの数日しか一緒にいないから当たり前だけど、知らない彼の一面を見るたびに、自分とは違う世界で生きてきた人なんだと実感する。



そして―――

―――いつの日か、元の時代に戻る。



それがいつになるのか、本当に戻れるのか、戻る方法も何もかもが分からない。



(別れが惜しいのかな)
(悲しいのかも)



どう考えても怪しい人だった沖田さんがいなくなることがこんなにも悲しいなんて…




*****



父と母が離婚して、私は母に、兄は父に付いていった。

幼かった私にはなぜ父と母が別れたのかは分からなかった。
分かったのは―――父とお兄ちゃんに毎日会えなくなるということ。


もともと身体が弱かった母は入退院を繰り返し、私は家に一人ぼっちのことも多かった。
でも母は私のことをとても大事にしてくれたし、ときどき会いに来てくれる父も兄も優しかった。



だから私は寂しくなんてなかった。



…そう思っていたはずなのに。













(ほんの数日だけど、帰る家に人がいた)
(一緒にご飯を食べる人がいた)
(…久しぶりに二人前の食事を作った)
(それがこんなにも温かくて寂しさを膨張させるなんて)




知らなかったのにね?


to be continue...
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