月は歪んだ

□03:月は歪んだ
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「…ん……??」

男が起きた。
思わず身じろぎしてしまった。


『…あの、大丈夫ですか…?』

「……ここ、どこ?」

男は私の問には答えなかった。

『あ、えっと…私の家です…』
「……君は?」

男は私に問うてばかりいる。
流石の私も少し苛ついた。


『あの、私のことを聞く前に貴方のことを教えて下さい。
貴方の名前は?
何故私の家にいるんですか?
…だいたい、どうやって入ったんですか?』

「僕が聞いてるんだけど?
答えないと…殺しちゃうよ?」

『どうぞ。
いいから早く答えて下さい。
だいたい人に問う前に自分のことを話すのが礼儀です!』


しまった。
つい強気になってしまった。
もし、本当に人殺しだったら?
そう思うと怖くなった。


「っ…あははっ…君、面白いね。
殺すって言われて“どうぞ”って…あははははっ!」


男は急に笑い初めた。
…笑い事じゃないんだが。


「僕は沖田総司です。
何故君の家にいるのかは分からない。気がついたらここにいたんだ。で、君は?」

『え?沖田、総司…さん?
あ、私、緒方美憂と云います。
ところでその…沖田さんは、ドラマか何かの撮影中だったんですか?気がついたらここにいたって…』


沖田総司。
この名を聞いて思い浮かぶのは、新選組一番組組長の…
いやいやまさか、ないない、そんなはずない。

私は疑問符を浮かべた。


「どらま??撮影?…なんの話?
僕は今まで屯所にいたはずなんだけど…」

『え?屯所??新選組の?』



うわっ、言ってしまった
…恥ずかしい。
まるでタイムスリップを信じてる子供みたいなことを言ってしまったようなものだ。

しかし沖田さんは平然と答えてくれた。


「そうだよ」

『……はい?』

「だから、新選組の屯所にいたはずなんだけど、って!」

『いやいや、からかわないで下さいって!
私だって高校生ですよ?
起きたら未来でした、なんてお伽噺みたいなこと信じる歳じゃないんですけど。』

「こうこうせい?」

『はい?そうですけど…』

「…ねぇ、さっきから聞きたかったんだけど“どらま”とか“こうこうせい”って何??
いまいち話が噛み合ってない気がするんだよねぇ。」

唖然。
開いた口が塞がらない。
…まだ私をからかうか!

『何言ってるんですか!冗談も程ほどにして下さい。そんなの小学生でも騙されませんよ!!』

「だから“しょうがくせい”って何さ!!」


沈黙。

沖田さんは怒っている。
至って真面目に、だ。

まさか…、と私は思う。
そして、
そんなはずない…、と思う私がいる。
これで騙されてました、なんて恥ずかしすぎる。
しかし真面目な沖田さんを見ると嘘ではない気がしてきた。


『…あの…今、何年ですか。』

「何でそんなこと聞くの?
文久三年に決まってるでしょ」

『今は平成二十三年ですけど。』

「え…?」

今度は沖田さんが驚く番だった。













(からかってんの?)
(…それはこっちのセリフです)
(美憂ちゃんてからかいがいありそうだもんね)
(それ…)



誉めてるんですか?



To be continued...
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