あの日あの時あの場所で

□第Y話 点と点が線に結びつく
1ページ/3ページ



――知れば貴様は二度と有り触れた『平凡』な日々など送れないと思え。


木霊する男の言葉。

何故、知れば自分のありふれていた日常が壊れされるのか。
ロランは男の言葉の意味を理解出来ずにいた。
だからといって、男が自分に冗談を言っているとも思えない。
なので、ロランはその意味を求めるしかなかった。

それはいったいどういう意味だ、と。
しかし、その問いを聞く前にラチェットと目が合う。


「そんな不安げな顔をしないでくれ、ロラン。」


自分の心情を悟ったのかラチェットは優しげに笑った。


「スタースクリームは言い方がどうも他者を思いやる気持ちが微塵もなくて困る。
 お前はもっと優しく言葉を掛けてやることは出来ないのか?」

「何故俺がこんな虫けら相手に「彼女をそのように言うのは止めろ。」・・・ちっ!」


隠す気のない舌打ち。
態度を改めないスタースクリームと言う男にラチェットは深々とため息をついた。


「すまない、ロラン。この男は人の忠告を全く聞きやしない奴なんだ。」

「わ、私!そんなに気にしてませんよ!ですから、ラチェット先生が謝る必要はありませんので!」


全く悪くないラチェットが申し訳なさそうに謝るので、慌てて気にしていないと伝える。


「おい!話を脱線させるな!」


だが、二人のやり取りに腹を立てたのかスタースクリームが怒鳴る。


「す、すみませんっ!」

「ロラン、スタースクリームは勝手に激昂しているだけだ。
 一々アイツの相手にしていると、こちらが疲れるだけで何の特にもならないぞ。」

「貴様はさっきからこの俺に喧嘩を売っているのか!?」

「お前に喧嘩を売る暇があるなら、患者のリペアに時間を充てたいところだな。
 それよりもお前はまだロランに名を名乗っていないが、いい加減自己紹介ぐらいしてはどうだ?」


のらりくらりと自分のペースを少しも崩さない。
寧ろ、相手がこう言えば、ラチェットはすぐに率直な言葉を返してくる。
スタースクリームは怒りがかなり頂点に達してきたのか、身体全体が小刻みに震え上がっている。


「・・・ッおい!虫けら!!」


怒号がロランにぶつけられる。
自分に来るとは思っていなかった為に、反射的にびくっと身体が大きく跳ね上がり、慌ただしく返事をする。


「いいか、良く聞け!俺の名前はスタースクリームだッ!貴様のその小さな脳みそでよく覚えておけ!!」


相手を怒鳴るように自己紹介をしてきた。
呆気にとられるが、すぐにロランはブンブンと首を縦に勢いよく頷いた。
言い切った本人はこれでいいんだろう、と切れ目を更に細めてキッとラチェットを睨み付ける。
あんな怒鳴り散らす自己紹介があるかと本来なら注意すべき事だが、敢えてラチェットは何も言わなかった。
これ以上言った所で、スタースクリームがあれ以上の真面なことが出来るとは思えないからである。


「・・・さて、お互いの自己紹介が終わったところでロラン。
 君の疑問についてだが、生憎我々は答える気はない。」

「それはつまり・・・。」  

「あぁ勘違いしないでくれ。我々がその疑問に答えることが出来ないのであって、我々ではない別の者なら答えてくれる。」

「別の方が、ですか・・・?」


どうして、此処に居るラチェットやスタースクリームは答えないのか?という疑問が浮かぶが、本人がこう言っているのに、それでも尋ねるのは野暮だ。
だから、ロランは深く尋ねるような真似はしなかった。
素直にこちらの都合を聞き入れた事に気をよくしたのかラチェットは綻んだ。


「では、ロラン。君の疑問に答えてくれる人物達の所へ案内しよう。」


開かれていたドアの先へとラチェットは歩き出そうとする。
それに続こうとロランも急ぎ足で彼の後ろを歩く。


「・・・。」


突如ラチェットの足がピタリと止まる。
歩みを止められた為に、ロランは危うくラチェットの背中に衝突しそうになるが何とか踏み止まれた。
どうかしたのか、とラチェットの様子を伺う。
ラチェットはすっと右手を耳に当てて、真っ直ぐ一点だけを見つめていると思ったら、少しずつ表情が険しくなっていた。
どうかしたのかと思い、ロランは声を掛けようとしたが、ラチェットが先にこちらを振り向いた。
険しかった表情は消えていたが、その代わり名残惜しさと申し訳なさが合わさった顔をしていた。


「すまない、ロラン。急用を思い出した。」

「えっそれじゃあ。」

「残念ながら君とは此処でお別れだ。まあ私が居なくとも案内の続きはスタースクリームにでも任せるとしよう。」


後ろで足取り荒く大股で医務室から出ようとしていたスタースクリーム。
そのまま去ろうとしていたのだろう。
しかし、まさかのタイミングで自分がラチェットの代わりにロランの案内を任すと言われ、一瞬驚愕したかのように目を見開くが、すぐに嫌そうに眉間に皺を寄せる。


「おい、この俺にそんな面倒な事を押しつけるな。」

「私も出来る事ならこのままロランを案内したいさ。
 しかし、いつもの馬鹿共が懲りずにまたやらかしたようでな、それの対応に行かなくてはならない。」


何ならお前がそっちに行ってくれるなら私も助かるが?と含みのある笑顔。
スタースクリームは眉間の皺を更に寄せ、下がっていた口角が微妙に引き攣っている。
話の内容が全く読めないロランは二人の顔を交互に見て、どうすればいいのかあたふたしてしまっている。


「・・・ちっ!アイツ等の尻ぬぐいするぐらいなら、この虫けらの案内をした方がマシだ!」

「そうか、では後はお前に任せるぞ・・・ロラン、不安かもしれないがスタースクリームが私の代わりに君を案内をしてくれる。」

「あっはい、分かりました!ラチェット先生もご用の方、頑張って下さい!」


ロランがラチェットの用がどんなモノなのかよく分からないが、それでもこれからとても大変な何かをやらなければならない事は理解したのでロランなりに応援の言葉を送った。
その言葉一つにラチェットは顔を綻び、一言礼を告げると何処かへと行ってしまった。



次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ