あの日あの時あの場所で

□第0話 少女は父から聞かされる
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暑い真夏の日。

太陽の日差しを浴びながら外を駆け回っている金髪の少女とそんな少女を見守るように見つめている茶髪の男性が居た。

どちらも同じ美しいエメラルドグリーン色の瞳を持ち、顔立ちもどことなく似ている為親子である事が分かる。


「ぱぱぁっ!」


先ほどまで駆け回っていた少女はいきなり進路を変えては勢いよく父親の胸へと飛び込んできた。
父親は多少驚きながらも笑顔で少女を受け止める。


「何だ何だ?どうしたんだ?」

「えへへ、ギューッ!」


少女は満面な笑顔を父親に向けては、ギュッと抱きつく。
父親もそんな娘の行動が愛らしく思え、負けじと抱きしめた。

その光景は誰がどう見ようとも、仲が良い親子だと思えてしまう。


「ねえぱぱ。」

「ん?」

「これなぁに?」


少女は父親の首に掛けられているペンダントを手に取る。
それは模様にも文字にも見えるまか不思議なものが刻まれていた石。
子供である少女にとってはそれがとても気になったのだろう。
キラキラと期待に満ちた瞳を父親に向ける。

そんな父親は・・・少し複雑そうな顔をしていた。


「ぱぱぁ?」


子供である彼女には何故父がそんな顔をするのかが理解できなかった。
ただ首を傾げて父を見上げる。

先ほどとは打って変わって真剣な表情となった父親は見上げる我が子を持ち上げ、自分と同じ目線にすると口を開く。


「ロラン・・・このペンダントはな、いつかお前が持つべき物になる。」

「?ロランにそのぺんだんとくれるの?」

「あぁそうだ、パパの『親友』曰くお前もまたこれに『選ばれた』人間らしい。」

「?」


質問意味がよく分からない少女はただ父親の目をじっと見つめる。
父親は抱き上げていた娘を自身の膝に乗せ直す。


「よく分からないよなぁ、実はパパも『親友』もこのペンダントに『選ばれる』意味がよく分かっちゃいないんだ。」

「おとなのぱぱでもわからないの?」


頬をぽりぽりと掻きながら、あぁと苦笑しながら頷く。

少女はきょとんと目を見開く。
少女にとっては大人は何でも知っているものだと解釈していた。
いつも自分が知らないことを父や母に聞けば何でも知っており、自分に教えてくれた。
自分にとって大人は何でも知っている物知りだと思っていたのに、そんな大人にも分からないことがあると発覚すると少し内心うずうずしてきた。
知らないものがあると余計に知りたくなるのが子供の性分。


(しりたいなぁ・・・。)


しかし、大人にも分からないことを子供である自分がどんなに考えても分かるわけもない。
気持ちは収まらないまま、結局考えるのを止めた。


「まぁそれはさておき・・・良いか、ロラン。
 お前がこれを持つことになった時、お前は大事な選択をしなちゃいけない。」

「せんたく?」

「あぁとっても大事な選択なんだ。選んだ選択によってはお前の人生が大きく左右する程に、な。」

「う、うー。」


子供なりに懸命に父親が話したことを理解しようとしているのか、少女は両腕を組んで眉間にしわを寄せていた。
そんな娘の姿を見て、父親は穏やかに微笑んでは娘の頭を優しく撫でる。


「悪い、今のお前にこんな話したって分かるわけないよなぁ?」

「うん、ロランにはよくわかんなぃ。」

「今は分からなくて大丈夫だ。ロランがもっと大人になってからパパと一緒に考えれば良い。」

「ほんとぅ?」

「あぁロランの人生がかかっている選択なんだ。
 じっくり悩んで一番良い選択を決めれば良い、お前も俺の『親友』みたいに・・・『アイツ等』と一緒に戦う必要なんてないんだ。」


最後に呟かれた言葉は聞き取れなかったが、少女は父も一緒に考えてくれることが相当嬉しかったのか笑顔になる。

少女には父親が言った話がどれほど大きなことなのか全く理解していない。
しかし、子供である少女に理解しろという方が可笑しな事であることを父親は分かっている。

妻やもう一人の我が子には娘に話したようなことは知らない。
もし知ってしまえば娘と同じく巻き込まれてしまうからだ。

本当は娘も巻き込みたくはない。
しかし、『これ』に選ばれた時点で間違えなく娘は『彼ら』と接触することだけは避けられない。
だからこそ、いつか来るであろう選択の日や『彼ら』と接触する日まで自分がこの子の傍に居てやらなくてはならないと父は誓う。


「帰るか、ロラン?」

「うん、かえるかえる!」


笑う娘に父も少しぎこちなく笑う。


(このままずっと平凡な日が続けば、どれだけ・・・幸せなんだろうか。)


きっと叶わぬ願いだと父親は理解している。
それでも心の何処かで願ってしまう。

娘が普通の人生を歩むことを・・・。

そして、二人は妻と息子が待っている自宅へと帰って行った。






































それから数年後、悲劇が起こる。
父は妻や息子、そして選択の日まで傍に居ると誓った娘を残したままこの世から去ってしまった。
それは偶然が重なり起きてしまった不慮の事故によって、だ。

父親は誓いを果たすことさえ出来ず、悔いを残したまま天に召された。
残された少女ロランは結局父親が話したことや来たるべき選択の日などの意味を知らないまま、大人へと成長していく。

そして、父の死から数年後。
ロランが19歳を迎えた日から三ヶ月後に、時は進む。



 

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