〜mermaid〜
□〜mermaid〜posterite
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日の光を受けて、目を覚ます。
部屋の向こうからは、オーブントースターのチンという音が聞こえて来て、香ばしい匂いが微かにしている。
眠りから覚めた少女の髪が窓から差し込んでくる日光によってキラキラと輝く。
その色は、この星の水の色をそのまま溶かし込んだような薄い水色だった。
少女はまだ少し重たい瞼を持ち上げて、ベッドから降りて部屋の扉を開ける。
ダイニングには、半熟の目玉焼きにソーセージが添えられたお皿と食パンが並べられていた。
「おはよう、珠々」
「兄さん、おはよう。今日は大学遅いの?」
「あぁ」
【珠々】は食卓に着くと手を合わせて「いただきます」と言って食べ始める。
彼女は十番中学に通う2年生。
その兄は珠々とは違い、漆黒の髪色をしている。
彼は大学生で、どうやら今日の授業は昼からのようだ。
同じ食卓に着き、2人ともしばらく黙って食べる。
珠々は朝が苦手であるので、この沈黙はいつもの光景なのだ。
それからしばらくすると、インターホンが鳴り響いた。
「はいは〜い」
そう言って、空になった食器をキッチンのシンクに置くと、珠々は学生鞄を持って玄関の方に向かって行った。
「珠々」
「ん?」
「気を付けてな」
「うん。行ってきます」
起き抜けの時とは全然違う、とても明るい表情を見せて少女は登校して行った。
§ § §
珠々の家に迎えに来たのは、毛先がきつくカールに巻かれた群青色の髪をツインテールにしており、表情からしっかりとした印象を受ける。
その少女は、珠々の幼馴染で同じ中学に通う【瑠璃】という。
珠々の家は瑠璃の家から学校ほの通り道なので、瑠璃が珠々を迎えに行くようにしている。
「おはよう、瑠璃」
「相変わらず、眠たそうね」
珠々のマンションの玄関口に向かいながら、挨拶を交わす二人。
恒例の朝の様子のようで、瑠璃は珠々の表情を見てくすりと笑った。
「あ〜、なんで朝ってくるのかな〜」
もう少し夢見心地で微睡んでいたいなと珠々は毎朝思うのだった。
「そんなにいい夢を見てたの?」
「ううん。覚えてない」
「なにそれ」
それからも他愛もない話をしながら、二人は十番中学の門を入って行った。
「もう、うさぎったら信じらんない!女の子のくせに早弁なんてさ〜」
学校ではいつものことながら、友達の【月野うさぎ】が遅刻をしてきて、廊下に立たされていた。
朝食もままならなかったうさぎは、そこで昼のお弁当を食べようとしたところ、さらに担任に咎められ、赤点のテスト答案までも突きつけられてしまった。
その授業のあと、もう一人のクラスメイト【大阪なる】が思いっきり突っ込んでいた。
一緒に裏庭に出た珠々と瑠璃はしょぼくれているうさぎに苦笑していた。
珠々は幼馴染の瑠璃以外とは、この二人と仲良くしていた。
「うさぎさん、テストどうでした?」
ずんと落ち込んでいるうさぎの元へとまた新たにクラスメイトがやって来た。
グルグル眼鏡をかけたいかにも勉強が好きそうなタイプの男子で、【海野ぐりお】と言う。
「この落ち込みようを見て分かるでしょう?だめだったに決まってるじゃない」
「う…」
なるが容赦ない言葉で海野に言った。
「な、なるちゃん……」
横で聞いていた珠々は額に汗を流した。
「そんなに落ち込むことないですよ。僕も今回手を抜いたもんで100点取れなくて。まー、テストなんてゲームですよ」
「ヤな奴ね」
海野がさらりと嫌味なことを言ったのに対してなるは両拳を腰に当てて文句を返した。
「そんな珠々さんと瑠璃さんは、いつも完璧ですから、今回も100点だったんでしょうね」
急に方向を変えて、珠々たちに海野は訊いた。
「え…、えぇ……」
珠々たちは満点を取っていたのだが、落ち込んでいるうさぎの手前、たじろいではっきりとは言えなかった。
「うぅ……」
「あ!ねぇねぇ、セーラーVがまた現れたんだって!聞いた?」
「ん?セーラーV?」
うさぎがやはり落ち込んだ声を上げたので、なるが慌てて話題を変える。
「っ!……」
なるが話題にし始めた“セーラーV”の名前を聞いたとたんに瑠璃が少しだけ引っかかったような表情を見せる。
だが、それには誰も気がつかなかった。
なるが続けて話す。
「宝石強盗の犯人を捕まえちゃったのよ!」
「へー!すごいっ!!」
「すごいよね〜!」
話題がうまく変わってうさぎの表情も和らいできたのを感じたなるは話を盛り上げようとしていく。