沈黙の儚き風

□final story9
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 ちびちびの力によって魂となりセーラームーンに力の結晶を渡すことができた時雨は、器(身体)に戻る途中、白の世界でユージアルと再会した。

「会いたかった!!」

 時雨はユージアルに抱きついた。

『ごめんね…』

 抱きついてきた時雨を受け留めながらユージアルは優しい声で言った。

 時雨は首を振った。

「いいの。ユージは悪くない」

 ユージアルは時雨を見下ろして柔らかく微笑む。

『あなたのことずっと見てた』
「え?」

 死して尚も見てくれていた。

 時雨は顔を上げてユージアルを見た。

『あなたの願いも伝わってたんだけどね…』

 四戦士の死を感じたあとの切実な願い。

 だがその後すぐにほたるとせつなが散って逝った。

 さらに、はるかとみちるも・・・。

『どうにかしたかったんだけど…、』

 全く力が及ばなかった。

 ギャラクシアの強大な力の前では無力でしかない自分の力。

『あなたのご両親も尽力してたんだけど…』

 だめだった。

 時雨はユージアルの口から意外な人物が出てきたので驚いた。

 その両親の姿はここにはない。

『私と一緒にずっと見守ってた』
「お父さん…?お母さん…?」
『そうよ』

 ユージアルは時雨の頬に手を添える。

『時雨が立派になってるって喜んでる』

 運命や使命や想いの中で色々なことがあったことも見ていた。

 そして心配していた。

 だが、ひとつひとつを乗り越えてきている娘の成長に喜んでもいる。

『会いたい?』

 目を大きく見開かせている時雨にユージアルは聞いたが、時雨は首を振った。

 自分は両親の死を悼むよりも使命を全うしてきた。

 そしてその使命の中心にいたほたるのことばかりを気に掛けてきた。

 血を分けた両親よりも創一のことを気に掛けてきた。

『そう…』

 時雨の考えていることが分かるのか、ユージアルは柔らかい表情を崩さずに頷く。

「ねぇ…、どうして?」
『ん?』
「どうして、今まで姿を見せてくれなかったの?」

 時雨の持つ力とユージアルの意思が繋がれば、夢の中でも出会うことは可能だったであろうに。

 ずっと見守ってくれていたのなら、少しでも姿を見せてくれても良かったのに。

『前に進んで欲しくて…』
「っ!!」

 時雨が自分に向ける想いはなんとなく分かっていた。

 だが生きていた時には、はるかの存在や榊の存在を知らなかった。

 自分が儚くなったあとに彼らの存在を知った。

 はるかへの未練。

 榊の想いの希望。

 それを前進して欲しいと願ったのだ。

『私がいなくなった後のあんたはひどいもんだったよ』
「っ////」

 部屋に籠りっきりで悲嘆に暮れていた。

 それをほたると榊が元気づけようと考えてくれた。

 その時にはるかが生きていたことが分かり、少しずつ持ち直し始めた。

『つらい思いをさせてごめんね』
「もういいの、ユージ」

 今、こうして会えた。

「ユージっ!!」

 また強く抱き締める。

 このままこうしていたい。

 今、現実に戻ったら、自分の力は渡したがもしかしたら絶望が待っているかもしれない。

 そんなことを考えることも疲れてしまった。

『バーカ!』
「いたっ!?」

 ユージアルが時雨の額を指で弾いた。

『あんたがこうして縋りつくのは私じゃないでしょ?』

 こんなやりとりに懐かしさを感じながら、ユージアルの言葉に時雨は真剣な表情を見せた。

『もう、自分でも気づいてるんでしょ?』
「・・・・」

 時雨は申し訳ない思いに駆られた。

 約束を破ってしまった。

 いつも心配を掛けてしまっているその人物との約束。

 こんなに温もりをもらっていたのに。

 こんなに繋ぎとめてもらっていたのに。

 気持ちを抑えきれなくなって力の限りで飛び出してきてしまった。

『大切にしたいと思ってるんでしょ?』

 ユージアルが彷徨う心を導くかのように時雨の気持ちを言葉に乗せる。

『護りたいって思ってるんでしょ?』

 すべてユージアルの言うとおり。

 大切にしたい。

 創一、ほたる、はるかのように。

 護っていきたい。

 創一と共に。

 自分でも気づいている。

 かけがえのない存在であるということを。

『帰りなさい』
「ユージ……」

 ユージアルが自分から時雨の身体を引き離す。

『私はずっと時雨の傍にいるから』

 時雨は瞳を潤ませた。
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