沈黙の儚き風

□story6
2ページ/5ページ

「・・・・・」

 時雨は凛とした鋭利な瞳をその視線の方へと向ける。

「時雨…、」

 時雨は自分の前に姿を現した二人に対してため息を吐いて、心底面倒臭そうな態度を見せた。

 はるかとみちるが揃って目の前に立っている。

「なんの用?」
「時雨…、お前……」

 はるかが躊躇いながら何かを言おうとしている。

「あの土萌ほたるとはどういう関係なのかしら?」

 その横からみちるがはっきりと訊いて来た。

 時雨は躊躇いもなく訊いて来るみちるに対して、さらに鋭利にした冷めた視線を送った。

「どうして、ほたるのとのことを聞いてくるの?」
「どうしてあなたは土萌の養子に入ったの?」

 はるかを放置して険悪な雰囲気が時雨とみちるの二人の間に漂っている。

「あなたたちは調べることが得意なんでしょう?」

 少し黙っていた時雨が妖艶な笑みを見せて二人に言った。

「私の旧姓は天宮。それで分かるんじゃないの?」
「・・・・・」

 みちるは、時雨の挑戦的な態度に少し苛立ちも感じたが、そこまで言われて黙った。

「私たちのことは放っておいて!!」
「時雨?」

 ここは自分の安住の場所。

 そしてあの娘は今の私の全て。

 だから、壊さないで欲しい。

 これ以上は関わらないで欲しい。

「もうこの場所から…、ほたるの近くから離れて!!」

 そう言い放つと時雨は走り去って行った。

「時雨!!」
「はるかっ」

 時雨の後を追おうとするはるかの腕をみちるは掴んで止める。

「私たちの使命を分かってるわね」
「あぁ、みちる…、分かってるよ」
「そう…」

 そうして二人は寄り添いながら敷地内へと向かって行った。




‡   ‡   ‡



「おはよう、土兄くん」
「?……あぁ、木野さん、おはよう」

 まことは登校すると一番に同じクラスの榊の元へと声を掛けた。

 榊もまことだと認識すると爽やかな笑顔を向けて挨拶を返した。

「時雨ちゃんと幼馴染だったなんて知らなかったな」
「まぁ、去年まで学校違ったしな」
「で?」

 と言いながら、榊の近くの席の椅子を寄せてそれに座ったまことは榊に強気の表情を向けてさらに問い掛ける。

「好きなんだろう?」
「ぶっ……」

 まことの好奇な視線に構えていたのだが、あまりにストレートに聞かれたので、身体を強張らせて閉じた口から空気を吹き出してしまった。

「おいおい、直球だな」
「アハハ、ごめんごめん」

 頭の後ろに手を当てて、笑って謝る。

 そのまことを見て榊は落ち着きを取り戻すと静かに話し出した。

「アイツは変わった」
「え?」
「幼い頃と変わってしまった」

 こちらに転校して来てからもそれがより濃く感じられるようになった。

「だから、心配なんだ……」
「………」

 まことはその榊の言葉に時雨には何か影があるのだと知った。




‡   ‡   ‡



「今日は大丈夫だったみたいね」
「うん」

 放課後になり、十番中学をすぐに出た時雨は無限学園へと向かった。

 その校門の前にはほたるが立って待っていた。

 2人は落ち合うと真っ直ぐに土萌邸へと帰って行った。




「ほたる、先に部屋に行っといて。着替えたらお紅茶淹れて行くから」

 家に着くと靴を脱ぎながら時雨はほたるにそう告げた。

 ほたるは時雨の言葉に頷くと自室の方へ向かった。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ