Short Stories
□バレンタインチョコ
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「まこちゃん、お願いっ!!」
「え?」
ある日、学校の帰り道、唐突にうさぎが顔の前で両手を合わせてまことにお願いをした。
まことは驚いてうさぎを見下ろした。
「今まで何度もお願いをして、ことごとく失敗してきたけれど……今回は本気の本気の本気なのっ!!」
そろそろ春に向けて暖かくなりつつあるこの時期。
それでも今日はコートとマフラーが欠かせないぐらい寒かった。
今週末に向けて、また一段と冷え込むらしいが、世の女の子たちはそんな寒さにも負けないで、燃えに燃え始める時期であった。
うさぎもその女の子の一人となろうとしている。
「で、うさぎの頼みを受けたの?まこちゃん?」
うさぎから頼みごとをされてから数日後の土曜日、レイのいる火川神社でうさぎ以外の皆が集まっていた。
まことはうさぎとここで待ち合わせて、これからその頼みごとのために買い物に行く予定だ。
「今回も今までと一緒でさっさと音をあげて、まこちゃんに泣きつくに決まってるわよ」
「また、そんな意地悪なこと言って!!レイちゃんの意地悪!!」
コタツの中に入っているレイたちに向けて、今やって来たうさぎがムっとした顔で少し怒って言う。
「私ももう高校生よ!!一つ大人になったわよ!!」
「なぁ〜に言ってるのよ!何一つアンタは変わっちゃいないわよっ!!」
「レイちゃんには分からない、内面の成長ってもんがあるのよっ!!」
「内面含めて変わってないって言ってるのよっ!!」
いつものように次第にヒートアップするうさぎとレイの言い合いを亜美と美奈子は黙って見つめている。
まことは一人、この時間を使ってコートを取りに行っていた。
ヒートアップしきったレイは、ついにはうさぎと顔を突き合わせて、舌を出し合って「ベベベ」と言い合い始めた。
そこへ、コートを着て靴を履いて来たまことがその2人と止めて、うさぎに買い物に行くのを促した。
スーパーに着くと、うさぎたちが買おうと思っているものが、コーナーになってたくさん揃えられている。
「どれにしようか、迷っちゃうなぁ〜」
「そうだねぇ。これだけ品物があると迷うよね」
うさぎが色々回って品定めをしながら、その横でまことが自分の意見(アドバイス)を述べてみる。
結局30分ぐらいその場にいて、必要なものを買うと、まことの家へ直行した。
「とりあえず、今日は予行練習だから落ち着いてやっていこうね」
「うん」
* * *
「でぇ?あの日、うさぎはどうだったの?」
「順調だったよ。できあがりもとても良かったし」
それから一週間後、またレイの家に集まり、まことたちは話していた。
今日は2月13日の日曜日。
そう、バレンタインデーの前日。
世の女の子たちは想いを込めた手作りチョコレートを作るのに必死だろう。
そう――…うさぎもその一人。