昏い銀花に染められて…
□the present 20.
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「だから……、セレニティの情報はまだないわ…」
かぐやはまた夜の公園に来ていた。
本当はヒーラーに会いたいと思って出てきたのだが、今晩、かぐやの前に姿を現したのはガーネットの皮を被ったヴェーランスだった。
ヴェーランスは性懲りも無くかぐやにセレニティと思しき人物は見つかったのかと訊いてきたのだった。
取り引きに応じてからまだそんなに日は経っていない。
そんなにすぐに見つかるものでは無いと思い、かぐやは少し苛立ちながら答えた。
そんな様子も構わずにヴェーランスは怪しく嗤う。
『まぁ、いい。私もまだ完全ではないからな…』
「・・・・」
そうして、怪しい嗤いを見せたままヴェーランスはかぐやの前から去って行った。
かぐやはじっとヴェーランスの去る後ろ姿を見つめていた。
(妖気が高まっている……)
ヴェーランスは完全でないとは言った。
だが、その妖気は急激に上がっている。
のんびりしている間はない。
かぐやは少しだけ焦りを感じた。
そしてベンチに座り、塞ぎ込むと考えた。
この前、うさぎにクリスマスパーティがあると誘われた。
「・・・・」
疑いはある。
だけど、また確かではない。
そして、それを確かめることを拒んでいる自分がいる。
これは前世の自分の感情なのだろうか。
それでも、ガーネットは取り戻したい。
前世でも現世でも、いつも自分に寄り添っていてくれていた、大切なパートナー。
自分の付きネコ。
「っ……」
かぐやは固く目を瞑った。
クリスマスパーティ。
きっといつものうさぎの愉快な仲間たちが勢揃いするのだろう。
何か探れないだろうか。
そう考えたかぐやは気持ちを固めた。
† † †
翌日、かぐやは寝坊しそうなうさぎを起こしに彼女の部屋に入る。
「うさぎ!うさぎ!」
身体を揺らすがなかなか瞼は上がらない。
「う〜。もうちょっと…」
「そう言ってずっと寝てるでしょ!」
うさぎの家に来てから、毎朝の日課のようになりつつあるこのやりとり。
かぐやは呆れてため息を漏らす。
「もう、早く起きてっ!」
そう言って、思いっきり布団をはがしてから、うさぎを転がしてベッドから落とす。
「いった〜〜い!いたいいたい!かぐやちゃん、ルナより乱暴だー!」
「知らないわよ」
遅刻常習犯のうさぎを更生させようとしているのだ。
文句を言われる筋合いはない。
「さ、着替えて降りて、ご飯食べて来てよ」
「はぁ〜い……」
かぐやは朝食を食べない。
うさぎが朝食を食べている間は、また部屋に戻って読書をし、食べ終えた頃に降りて来て一緒に学校に向かう。
かぐやが部屋を出ると、まだ瞼の重いうさぎはのっそりと身体を動かして制服に着替え始めた。
「失礼しちゃうわ。私はあんな乱暴にうさぎちゃんを起こしてないわよ」
「だから、”ルナより”って言ったでしょ」
そう言ううさぎに納得のいかないルナの表情。
「それにしても馴染まないわね。かぐやちゃん」
それは夜に外出することを言っているのだろう。
「しょうがないよ。今まで1人きりだったんだもん」
うさぎはそう言うが、かぐやはまだ謎なところが多い。
夜天たちから聞いたところによると、本当の敵はやはりヴェーランスで、そのランカウラスの花を使ってセレニティを探しているということ。
月の一族への復讐。
ヴェーランスがかぐやを利用したことにはなにか意味があるのだろうか。
かぐやだって月の一族だというのに。
「大気さんの言うように、まだ油断しない方がいいと思うの」
ルナは真剣な表情を見せて言った。
うさぎはそんなことないと思うけどなと思いながらも、とりあえず頷いた。
うさぎが朝食を終えると、ちょうどかぐやも玄関まで降りて来たので、そこで落ち合い一緒に学校に向かった。
「ねえ、うさぎ」
「ん?」
道中、かぐやがうさぎに声を掛ける。
「この前、クリスマスパーティがどうとか言ってたじゃない?」
「うん。……あ、もしかして!?」
かぐやが言いかけると、うさぎは顔を近づけて期待の眼差しを向ける。
「う、うん。参加しようかなーって……」
勢いに押されながら、かぐやは答えた。
「嬉しい!」
うざきはかぐやの手を取って大喜びの様子。