皇翠〜kousui〜

□act.4
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『全知全能なるデス・ファントムに
忠誠を誓え』


「ん……」

 ジェイドはまた夢を視ている。


『この宇宙を支配するのは
絶対の力を持つデス・ファントムである』


 そしてその表情が苦悶に満ち始める。

 夢の中で割れた低い不気味な声が滔々と語る。


『生命などという不浄なものを
この宇宙から抹殺するのだ』


 夢の最後には必ず現れる髑髏のイメージ。

 全身にマントを纏うその髑髏は怪しく目を光らせると、斑色の手をジェイドの方に向けて伸ばした。



「いやああああああ!」

 ジェイドは飛び起きた。

 日に日に鮮明になりつつある不穏な<未来>。

 それはデマンドが魔導士・ワイズマンをこのネメシスに連れてきてからより鮮明になったようにも思える。

 ジェイドはいつものように昂った気持ちを落ち着かせる。

「・・・・・」

 そして、気持ちが落ち着くのと同時に物寂しい気持ちが込み上げてくる。

 隣に愛しい人が来ることはもうないからだ。

「どうしたっ!?」
「っ!!?」

 そんな風に思っていると部屋に誰かが駆けこんで来た。

(デマンド…?)

 ジェイドは淡い期待に胸を膨らませた。

 だが、自分の元に駆けつけて来てくれたのは蒼い髪の青年だった。

「サフィール…」
「どうした?嫌な夢でも見たのか?」
「・・・・」

 ジェイドは眉を垂らして目を大きく見開いたまま黙っていた。

(やっぱり……)

 もう、デマンドは自分の元には来てくれない。

 戻ってこない…。

「ジェイド?」
「あ、うん。大丈夫」

 いつものことだからとジェイドは素っ気なくサフィールに答える。

 サフィールはジェイドを心配そうにじっと見つめる。

「君はいつも強がっているな」
「っ!?」

 ジェイドは眉間に力を入れて、サフィールを鋭い目で見た。

「ほら、そうやって」

 勁い瞳を見せて強がってみせている。

「たまには力を抜いて他人に頼ったらどうだ?」

 サフィールにそう言われてジェイドは睨んでいた目の力を抜くと、何度か瞬きをして目を丸くした。

 そしてくすくすと笑い出した。

 そのジェイドの様子を見て、今度はサフィールが目を丸くした。

「仏頂面のあなたが言うこと?」
「え?」
「あなたたち兄弟は似ているわね」

 ジェイドの思いもよらない言葉を二人とも掛けてくれる。

「そんなことは初めて言われた」

 サフィールは不思議そうな目を向けた。

 そして一つ間を置くと、改めてジェイドに言った。

「お茶でも持ってこよう。きっと気が休まる…」
「…ありがとう……」

 そう言ってサフィールはお茶を淹れに退出し、ジェイドはベッドから降りてテーブルの前に座ってサフィールを待つことにした。

「・・・・」

 暗い部屋で一人待ちながらジェイドはまた物寂しい気持ちを思い出していた。

 夢見城にやって来たデマンド。

 彼が来る前に彼のことは夢の中で視ていた。

 それが自分の<未来>だとは思わずに理想の男性だと自分の心の中で想い膨らませていた。

 だが、彼は実際に自分の目の前に現れた。

 そして一目で惹き込まれてしまった。

 次に会った時は夢見城が襲われてそこから逃げた時だった。

 誰が襲ってきて、何が目的なのか全く分からず、心の底から恐怖を感じていた。

 その場に現れたのが彼だと分かった瞬間、助けて欲しいと思った。

 だから本当にそうなった時は心底嬉しくて、幸せだと思った。

 ジェイドはデマンドとの出会いを思い返しながら、膝の上に乗せた手をじっと見つめてぐっと握り締める。

 幸せだった。

 想いが通じ合っていたことが。

 ずっと夢見城に囚われていたジェイドにとって初めての恋。

 愛しくて傍にいたいと想えた人。

 だが、その通じ合っていた想いは空しくも儚いものになってしまった。

(デマンド……)

 何度も<夢見>で見ていた不吉な<未来>。

 それが現実になってしまった。
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