皇翠〜kousui〜
□act.3
1ページ/4ページ
「ん……」
ジェイドは眠っていた。
たまに苦しそうな声を漏らす。
「う……、」
被せている布団を両手で力強く握ると次第に苦悶の表情を浮かべる。
「っ!!……いやああああっ!!」
それから一つ間を置くと目を開けて叫び、飛び起きた。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
ジェイドは昂った気持ちを落ち着かせるために、大きく呼吸する。
「……っ」
そして、夢を思い出す。
脳裏に残るあの髑髏。
どんな<未来>を示唆しているというのだろうか。
ジェイドは両手で自分の顔を覆った。
その時――、
「ジェイド!どうした!?」
そう言って、デマンドがジェイドの部屋に飛び込んで来た。
「デマンド…?」
デマンドは一目散にジェイドのベッドの傍らまで駆け寄った。
そして、ジェイドの両肩を掴むと、心配した表情で真っ直ぐに見つめた。
「どうした?また嫌な夢でも見たのか?」
「……いつものこと…よ?」
本当に心配してくれているデマンドにジェイドは落ち着いた声音で言った。
「いつものこと…?」
デマンドは眉間に皺を寄せた。
「叫ぶほどの嫌な夢をいつも見ていたというのか?」
「え?…えぇ……」
ジェイドは目を丸くした。
そんな風に言ってもらったことがなかったので豆鉄砲を食ったような気持ちになる。
これまで、付き人も駆け寄って来てくれてはいたが、掛けてくる言葉は『誰の夢を視たのか』と事務的なものだった。
「我が一族の悲願の未来のことも忘れてくれ。もう未来など知らなくていい」
「デマンド……?」
「私たちは無知だな……」
「え?」
「こうして一人の人間を苦しめていることなど、思いもしていなかった」
ジェイドはデマンドの掛けてくれる言葉の一つ一つに目を丸くした。
すると、くすくすと突然に笑い出した。
「?どうした?」
デマンドは少女が笑い出したことに驚いていた。
「そんな風に言ってくれた人は初めてよ」
口元に手を当てながら、面白くてジェイドはまだ笑っている。
「人は誰しも、他人を苦しめているものよ。そしてそれに気づく人は少ないわ…」
欲望を大きく持つ人ほど、他人を踏み台にして行く。
ジェイドは<夢見>の中でそういう人を何人も視てきていた。
「それに、夢は願って視たり視なかったりできるものではないの。……でも、ありがとう…」
笑いをおさめるとジェイドは改めてデマンドを真っ直ぐに見つめて、柔らかい笑顔で思いを伝えた。
ジェイドのベッドの端に座って彼女の肩を掴んでいたデマンドは、その笑顔を向けられた途端に堪らない気持ちが込み上げてきた。
そして、唐突に立ち上がるとジェイドを横向きに抱き上げた。
「え?え?な、なに?どうしたの?」
ジェイドは慌てた。
「私の部屋に連れて行く」
「えっ!?」
本当にいつも突然に強引に決めてしまうデマンド。
「嫌な夢を見て叫び起きる度に、すぐに傍に居てやれないことがもどかしい」
「でも!一族の皆が良くは思わないわ」
まだ自分たちは出会ったばかりだというのに。
デマンドはじっとジェイドを見る。
ジェイドはその真剣な眼差しに少し怯んだ。
「私が長だ。何も案じることはない」
きっぱりと言い放った。
いっそ清々しいまでのその言葉にジェイドは何も言い返せず、観念した。
そのままジェイドはデマンドの部屋へと連れられた。
そして、デマンドのベッドに優しく下ろしてもらう。
「ちょ、ちょちょちょっと待って!!」
デマンドはジェイドを下ろすとすぐに顔を近づけて口付けしようとした。
だが、それをジェイドはすかさずに止める。
「なぜ?」
「私たち、まだ出会ったばかりなのよ」
「もう出会ったんだ」
そう言うとデマンドはジェイドに少し体重を掛けて後ろに横たえようとする。
「待って待って!」
しかし、ジェイドはそれに耐えてデマンドを制止する。
「デマンド、愛はゆっくり育んでいくものよ」
「愛は欲しい時に手に入れる」
皇子と呼ばれ、長として頂点に立つものだからなのか、どうしても強引さが彼のステータスにはある。
ジェイドはデマンドの頬に手を添えて、またあの勁い眼差しを向けた。