皇翠〜kousui〜
□act.2
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いつも夢を視る――
視たくない夢を――
求められてもその通りには視られない夢――
そして、本当は語ってはいけない夢――
でも、ひとつだけ。
嬉しい夢を視た。
素敵な男性。
理想の男性。
それは予知なのか…、
それとも、想いが魅せたものなのか――
Ж
「姫様、クライアントです」
「……はい。お通しして」
ジェイドは徐ろに身体を起こすと、声を掛けてきた付き人に応えた。
ここは夢見城。
この城には代々<夢見>の力を持つ者がいる。
<夢見>――夢の中で重要な事柄を視る力を持つ者のこと。
その事柄はその人にとってとても重要なこと。
その人の運命に関わってくること。
未来なのだ。
だから<夢見>は見た夢の事柄を簡単に他人には告げてはいけないという理がある。
その昔、<夢見>は伝えなければならない事柄については権力者に秘密裏に伝えてきていた。
それがいつしか噂が風に乗り、幅広い人々に<夢見>の存在が知られるようになった。
そうして瞬く間に未来を見て欲しいという人々で溢れ返っていった。
夢で視られるかどうか分からないことが次から次へと依頼されていく。
<夢見>の存在価値が変わっていってしまったのだった。
そして現在、その夢見の能力を発揮しているのが【ジェイド】。
翡翠色の髪を肩の高さで二股に分けて括り、肩を出した蒼のドレスに身を包み、いつも憂えた優しい瞳を見せている。
ジェイドは広すぎるその一室の大きなクッションの真ん中でその柔らかさに少し埋もれながら、今まで身体を休めていた。
クッションの周りには4本の柱が立ち、薄いレースになった布が重なり合って少女のいる空間を覆っている。
部屋の扉に面している一面だけ開かれていて、<夢見>のクライアントたちにその姿を見せている。
ジェイドは気怠げな表情で付き人に頷いて依頼人の入室を許可した。
ジェイドは部屋の扉の方に向かって体勢を整えて、依頼人が入ってくるのを待つ。
だが気が重たい。
そして、改めて部屋の扉が開かれる。
「っ!!」
ジェイドは入って来た人物を見て息を呑んで驚いた。
その人のことを夢の中で見たことがあったからだった――
ジェイドは扉の前に立つ男性に見惚れてしまっていた。
その男性は銀髪をやや長めに伸ばし、容姿端麗で気高い印象が強い。
額には黒い三日月の印が逆向きに刻印されている。
ジェイドはこの人のことを夢の中で見たことがあった。
まさか実際に出会う人だとは思わず、自分が思い描いていた理想の人物を夢の中で描いただけだと思っていたのだが、どうやら予知夢だったようだ。
夢の中のその人は現実にいた。
普段は滅多に人前で表情を動かすことのないジェイドは、口に手を当てて目を少し見開いて驚いた表情を顕わにしていた。
「姫様?」
お付きの男性が怪訝そうにジェイドに声を掛けた。
「あ…、すみません」
ジェイドは自分が惚けていたことに気づいて、改めて表情を引き締めた。
「お話を伺いましょう」
ジェイドがそう言うと、依頼人の守秘義務のために付き人は退出した。
依頼人である銀髪の男性は部屋の中央まで入ると、片膝をついてジェイドのことを真っすぐに見た。
「………」
「??」
片膝をついて顔を上げた男性は何かを言おうと口を開きかけたが、どうしたのかジェイドを見たまま固まってしまっていた。
ジェイドはどうしたのかと首を傾げて依頼人を見つめ返す。
「美しい…」
「え!?」
顔を上げた男性が漏らした言葉にジェイドは胸を高鳴らせて驚きの声を発した。
「あ、申し訳ない」
だが男性は一度顔を俯かせると取り繕った。
彼の返事と共にジェイドは高鳴る気持ちを表情には見せないまま、冷静を取り戻すと改めて話を促す。
「伺いましょう」
「我らの一族が再び地球に戻ることができるのか…ということを知りたいのだ」
男性は、自分の代でなくてもいい。
今後、未来のいつの日にか自分たちの一族が地球に帰ることができるのかを知りたいと言うのだった。