沈黙の儚き風
□story11
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(ユージ……)
あの日から時雨は落ち込んでしまっている。
ほたるを無限学園へと送り、その足で十番中学に向かう。
なんとなく授業を受け、なんとなくの一日を送り、あとは真っ暗な自室に籠ってじっとしている。
ベッドの上に座ってクッションを抱いて黙り込む。
頭に思い浮かべるのは、大切に…頼りにしていた赤毛の年上の女性――ユージアルのことばかり。
・ ・ ・ ・ ・
ユージアルが死んだ翌日――…
「行ってきます」
ほたるは作り笑いを時雨に向ける。
時雨は笑顔さえも作れない自分に気づきながらも無表情でほたるを見送る。
その目は真っ赤に腫れていて、一晩中泣いていたことが見て分かるほどだった。
(ほたるに気を遣わせてしまってる……)
自分はほたるの傍にいて、ほたるを支える者のはずなのに……最近はあの娘にとても頼りないところばかり見せてしまっているような気がする。
そして、地面を見ていた目を上げて自分の学校へ行こうと無限学園の門とは逆の方向へと歩きはじめる。
登校する無限学園の生徒に紛れて、その時雨の様子をはるかとみちるが見つめていた。
だが時雨は、伏せていていつもなら気付くはずのその二人の視線には気付かなかった。
それから学校に着いた。
一方的にだが、うさぎたちがセーラー戦士だという正体を知っている時雨はなんとなく彼女たちと関わらないようにしてしまう。
時雨は分かっている。
ユージアルが死んだのがうさぎたちのせいでないことを。
でも、セーラー戦士というだけで少し距離をとってしてしまう。――気持ちの問題。
(それもしばらくだろう……)
気持ちの整理も付けば、きっと元に戻れる。
時雨はここ最近は自分でそれを信じて抜け殻のような毎日を過ごしていた。
・ ・ ・ ・ ・
時雨は抱いていたクッションをギュッと強く抱きしめた。
その腕を一度緩めると枕の下から一枚の写真を取り出した。
「………」
時雨は、また目を揺らして悲しみに浸る。
その写真には、嫌そうに顔をしかめるユージアルの肩に手を回し、笑顔の時雨が写っていた。
(ユージ……)
クッションに顔を埋めると、もう涸れ果てたのか少しだけしか涙は出なかった。
流れ出た涙以上に彼女に会いたいという気持ちばかりが募っていく。
だが彼女にはもう会えない。
その時“トントントン”と時雨の部屋の扉がノックする音が響いた。
時雨は写真を枕の下に戻してから、扉の向こうにいる人に聞こえるように声を掛けた。
「どうぞ」
「しーちゃん……」
そろぉっとほたるが顔を覗かせてきた。
だが、廊下から入る明かりでほたるの姿も表情も逆に真っ暗になって見えなかった。
真っ暗な時雨の部屋に気にも留めず、ほたるは時雨のいるベッドの前まで入っていった。
「どうした?」
ベッドの傍で座り込んだほたるに時雨は優しい眼差しを向けて聞いた。
相反してほたるは心配そうな瞳で時雨を見上げる。
時雨のその優しい表情が作り物であることが分かったからだ。
そして、少し言いにくそうにしていたが、しばらくして決心したのか口を開いた。
「今度の休みに十番自然公園にピクニックに行かない?」
「え?」
時雨は意外な台詞に少し驚いた。
「近くの公園だけど…、お弁当を持って行って自然に触れたら、しーちゃん、ちょっとでも元気になるかな……って…」
遠慮がちにほたるは言った。
身体が弱いほたるに対して自分が提案することだな、と頭の中でしみじみ思いながら、それだけ自分がずっと落ち込んでいたことに時雨は気付かされる。
(そうね……気分転換…ってのも必要なのかも)
いつも同じ行動ばかりしていては何も変わらない。
気持ちも。
「分かった。今度の休みにピクニックに行こう」
「本当!!」
真っ暗な部屋だったが、とたんにほたるの表情が明るくなったのが分かった。
「あのね、朝、少しだけ早く起きて一緒にお弁当を作りたいの」
「分かったよ」
その一言を言うとほたるは満足して時雨の部屋から出て行こうとした。
「それより、ほたる」
「?」
薄く開いた扉から再び廊下の明かりが差し込んでくる。
ほたるが大きな目をこちらに向けているのがそれで分かる。
その表情が可愛らしくて時雨はクスっと小さく笑って、そして言った。
「最近、コソコソと何やってるの?」
「え!?」
目をクリクリさせていた表情から瞬間にドキリとした焦りの表情を見せる。