沈黙の儚き風
□story9
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時雨が再び現れたのは、その駐車場を出たところ。
姿は見えないが地下に深く下がった駐車場の入り口付近でダイモーンによって閉じられた壁を破ろうと他のセーラー戦士が攻撃している音が聞こえている。
しばらくその場で音のみで様子を窺っていると、ダイモーンが浄化されたようだ。
入り口を攻撃していた戦士たちの手が止まった気配が窺えた。
中に入ることができたのか外にいたセーラー戦士の声が少しくぐもった。
くぐもり、何度か大きな音が聞こえたかと思うと、ユージアルがいつもの荒い運転で地下から出てきた。
キキーというタイヤの擦れる音が辺りに鳴り響いた。
敗北に悔しさを感じているからか、時雨が表に居ることも気付かずにユージアルは去っていった。
今回もセーラー戦士たちが勝ったんだと理解した。
時雨は伏せていた目を上げた。
深く下がった駐車場の入り口では、お互いの正体を知ったセーラームーンがウラヌスとネプチューンのことをはるかとみちると呼びかけていた。
そして、なぜ、人の命を犠牲にしてまでもタリスマンを求めるのか尋ねていた。
(幸せなやつ……)
時雨は率直にそう思った。
セーラームーン、すなわち、月のプリンセスはセーラー戦士たちの中心となる存在だ。
(だというのに、なんて綺麗事を言うのだろう)
時雨は未来の沈黙の夢を何度も見ている。
自分はこの世界でほたると創一がちゃんと生きていてくれればそれでいいのだから。
それは自分の願いで自分の我が儘でしかない。
それとは別に自分には使命があるから。
来たる沈黙の未来に、関係がないとは言っていられない。
今、その沈黙の世界を左右するという聖杯の力を手にするためにタリスマン――3つの神器が必要であるというのなら…、どっちの未来に繋がるにせよ、その人の犠牲はやむを得ないだろう。
(それで世界が守られるのなら……)
時雨は関係あるが直接には戦いに参加することのない者。
微妙な色々な考えが頭を巡りながらどっちつかずとなってしまっている。
「時雨?」
「ウラヌスっ!!」
「!?」
また考え事に集中してしまった。
いつの間にか目の前にはウラヌスとネプチューンがいた。
ネプチューンは自分たちが変身しているというのに時雨に声を掛けたことを注意した。
「いや、ネプチューン。時雨は知っているよ。僕たちの正体を」
「え?」
「………」
ネプチューンはウラヌスのその言葉に驚いてウラヌスを見ていた視線を時雨に向けた。
「あの時――…」
はるかが初めてダイモーンに襲われて、それをネプチューンに助けられた時。
はるかが自分の変身ペンを見つめながら、自分の心を決めた様子を時雨は見つめていた。
「そんな……」
ネプチューンは驚いていた。
そして、改めて時雨を見つめた。
時雨はネプチューンを鋭い視線で射ていた。
「でも、まさかあの娘たちまでセーラー戦士だなんてね……」
ネプチューンから視線を逸らすと時雨は呟くように言った。
「まぁ、そんなことはどうでもいいんだけどね…、それより、」
二人に視線を戻すと真っ直ぐに見つめる。
「あなたたちは、来たる沈黙の夢を見ただけで全てを思い出した気でいる…、」
「え?」
「時雨?」
時雨は低くした声でネプチューンだけでなく、ウラヌスにも鋭い視線を見せて言った。
「あなたたちは全てを思い出していないのよ!」
それだけ言うと時雨はウラヌスとネプチューンの目の前でフッと消え去った。
「「っ!!」」
(時雨?)
ウラヌスは時雨にそんな能力があることを知らなかったので心底驚いていた。
(あの娘は何者なの!?)
二人は驚き、先ほどまで時雨のいた場所を見つめた。
そして、しばらくその場にただ立っていた。
「しーちゃん」
公園のベンチでじっと座って待っていたほたるは、時雨がやっと戻って来た姿を見て立ち上がった。
「ごめんごめん。近くに自販機がなくて……」
「……いいの。待ってた」
「っ!!」
ほたるはそう呟くように言いながら、時雨に近寄り抱きついた。
時雨は驚いた。
それから、ほたるを優しい眼差しで見つめて包み込んだ。
「本当にごめん。さぁ、帰ろうか」
「うん」
忘れてはいない。
ほたるは自分の大切な人。
見守り導かなければならない人。
(私がこの子を導く――…)
ほたるの運命が指し示す方向へ。
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