沈黙の儚き風

□story9
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「ずばりっ!!ピュアな心ってなんだと思う!?」
「は?」

 学校を終えて時雨は、受験勉強のお手伝いでうさぎたちと共に火川神社に来ていた。

 飲み込みの悪いうさぎに亜美と二人がかりで一生懸命教えていると集中力が切れたのか、急に人差し指を立てて美奈子が時雨に尋ねて来た。

「急に何?」
「例えば、こんなことをするのがピュアな心の人っぽいよぉ〜とか?」
「はぁ?」

 全く脈絡の掴めないその質問が、時雨以外のメンバーには分かっているようだ。

 時雨は言葉に詰まってしまう。

「ねぇ!ピュアな心って何?」

 鳥が繰り返すかのように美奈子は時雨にもう一度尋ねた。

「美奈子ちゃん!」

 時雨に詰め寄る美奈子をレイがやめるように声を掛けたが美奈子は退く気は全くないようだ。

「何よぉ〜、こういう問題も出るかもしれないじゃない!?」

 そんな問題は受験問題に出ませんと呆れて皆の頭が停止した。

(どうして、そんなことを聞くの?)

 皆はこの話題の基がなんなのか分かっているみたいだが時雨はそれが少し引っかかった。

(もしかして、この人たち……)

 色々と思案していくうちに時雨は、今目の前にいる彼女たちに対してある疑いを持ってしまった。

(……もしかして…、もしかして……)

 この場にいる5人の少女たちを見回す。

(フっ…そんなわけないか……)

 結局、集中力が長く持たず、すぐにガヤガヤと喋りだしそれが収まらずワイワイとさらに盛り上がっていく皆の様子を見て、少し考え過ぎたなと時雨は頭を振り改めて美奈子に言った。

「一途に何かをしたり、見返りを求めないで人のために何かを一生懸命したりすることとかじゃないかな?あと、想いとか…」
「一途に…一生懸命……」

 そんな話を交えながら、それからも少し勉強し、この日の彼女たちの勉強会はお開きとなった。

 火川神社の階段を降りながらうさぎが時雨に尋ねた。

「時雨ちゃんはそんなに頭が良いのに進学しないの?」

 今のご時世、高校も上がらないで社会に出るというのは少し厳しいのではないかと以前、皆で話していたことがあった。

「なんとなく自立していけるような気がするのよね……」
「へぇ〜」

 うさぎたちには言わないが、この世界にそれほど興味はない。

 だから、今のには根拠がない。

 あの日、両親が死んだ時に一度味わった何もない未来。

 自分の家族で描いていくはずだった未来が一瞬にして無くなった。

 そして、甦った記憶と使命。運命。

 そんな風に時雨が心の内で思っている横でうさぎたちが顔を見合わせていた。

 時折見せる時雨の伏せた眼差し。

 暗く淋しそうな表情。

 普段からお世辞にも明るい性格とは言い難いが、それでもふとした瞬間に見せる笑顔や真剣な眼差しは自分たちと同じ世界、同じ場所にいると感じさせる。

 だが皆は知らない。

 時雨のことを――…

 一緒に喫茶店に寄り道したり今日みたいに勉強会をしたりしているが、それでも誰も時雨のことを本質的には知らない。

(もっと距離が縮まればいいのになぁ〜)

 うさぎたちはアイコンタクトでそう思い合った。




‡  ‡  ‡



「ねぇねぇ、ユージ」
「ユージアル!……何よ?」

 それから数日して時雨はまたユージアルの元に来ていた。

 ユージアルは相変わらずコンピュータの前に向かってキーボードを打っている。

 相手にされていないと分かっていながらも時雨はそんな彼女の傍をうろうろとして、たまに声を掛けていた。

 ほとんど無視していたのだが、負けじと声を掛けてくる時雨のことがついに煩わしくなったのかやっと返事をくれた。

 時雨はユージアルから反応が返ってきたのを嬉しく思いながら続きを話し始めた。

「ピュアな心ってなんだと思う?」
「はぁ?」

 冒頭の美奈子とのやりとりがそのまま繰り返された。

 時雨はそれが少し面白いと思って満面の笑みをユージアルに見せていた。

「だってピュアな心を探しているんでしょう?何を基準に探しているのかなぁ〜って…」
「そうねぇ〜」

 ユージアルは納得がいったのか、顎に伸ばした人差し指を当てて天井を見上げながら考えた。

「例えば…、何か自分の好きなこととか、やりがいを感じていることに熱中している人とか…、」
「熱中……」
「えぇ。今まで私がターゲットを選んでいた基準はそんなところかしらね」
「そっか……」

 時雨はユージアルのデスクの空いているスペースにトンっと座ってユージアルの思うピュアな心について納得した。

「どうした?」
「え?」

 急に黙り込んだ時雨が気になったのか、ユージアルがコンピュータの影から顔を覗かせて時雨に聞いた。

「また何に悩んでいるの?」

 本当によく悩むなぁ、とユージアルは少し呆れた顔をした。
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