沈黙の儚き風
□story2
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その日、空が急に曇り始めたかと思うと、すぐに強い雨が降り出した。
家に帰ろうと廊下を歩いている少女は徐ろに窓の外を見上げた。
「っ!!」
突然に雷が鋭く光ってから鈍くて大きな音を立てる。
その鳴った雷に少女は声も出さずに耳を押さえると、その場に座り込んだ。
肩は震えていて、固く瞑られた瞼は現状をすべて締め出して受け入れられないと訴えているようだった。
時を待たずしてまた雷が轟く。
少女はまた身体を固くした。
あの日を思い出してしまうような大きな音。
脳裏に浮かぶは破壊された建物。
その建物の中には両親がいた。
そして、大切に想う人たちがいた。
自分はそれを見ていることしかできなかった。
怖いと思うことしかできなかった。
そして、それと同時に知った自分の使命。
それを少女はたった一人で背負いこんでしまっているのだ。
「っ……」
局地的に雨が降り雷が鳴るだろうと天気予報で聞いてはいたが、ここまで激しく雷が轟くとは思っていなかった。
少女は、そのまま動き出せない。
自分の周囲には誰もいない。
皆、すでに帰ったか部活動の真っ最中であるか。
尚も轟く雷に次第に苛立ちさえも覚え始める。
――早く止まないだろうか。
「キミ?」
「っ!!?」
固く目を瞑っていた少女は、肩に触れた手を感じたと同時に呼び掛けられたので驚いて顔を上げた。
「どうした?雷が怖いのか?」
「・・・・・」
顔を上げると、顔の整った亜麻色のショートヘアーの人物が自分を心配そうに見つめていた。
新年度に入って春になったとは言え、まだ本格的には暖かさがやって来ていない今日この頃である。
だが、その人物は部活なのだろうか、見るも寒い半袖短パンのランニングウェアを着ていた。
「大丈夫かい?」
少女は声を掛けてくれた人物の顔をもう一度よく見た。
「っ!?」
そして、目を大きく見開いた。
運命の歯車が回り始めた……
「キミ!?」
少女の心がここにあらずという様子が見受けられたのか、少し荒目に声を掛ける。
その時――…
「いやあああ!!」
「!!」
今までで一番大きく雷が轟いた。
少女は、声を掛けてくれた人物の胸に咄嗟に飛びついた。
「アハハハ。本当に怖いんだね」
「あ…、ごめんなさい」
「謝ることなんてないさ。苦手なものは苦手なんだからさ」
そう軽く受け留めてくれた人物に、少女は自然と胸が高鳴った。
「見ない顔だけど、もしかして新入生?」
「え?あ、はい」
少女は2日前に入学式を迎えた。
そして、晴れてこの中学校の1年生となったのだ。
「名前、教えてもらってもいい?」
「はい、天宮時雨です」
「時雨だね。僕は天王はるか、中学2年だ。よろしく」
「よろしくお願いします」
これが、時雨とはるかとの出会い。
ここから、時雨とはるかの運命が始まったのだ。