皇翠〜kousui〜

□act.4
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 ルベウスはデマンドの地球侵攻には賛成だと言っていた。

 きっとエスメロードもデマンドの言う通りにするつもりでいるだろう。

 デマンドを頂点にしてまとまっているブラックムーン一族。

 その中で自分は彼に盾突いた。

 だと言うのに、サフィールはどうして自分に優しくしてくれるのだろうか。

「兄さんが…」

 サフィールが話し出したので、ジェイドは彼の目をじっと見つめて聞く。

「兄さんが愛した人だから…ってことにしとくよ」

 ジェイドは目を丸くした。

 しておくということは、真意は違うということだろうか。

 ジェイドは珍しくサフィールに誤魔化されてしまった。

「おやすみ」

 サフィールはジェイドの頬をひとつ撫でると、退出して行った。




Ж   Ж   Ж





 翌日、ジェイドの部屋にはあやかしの四姉妹が集まっていた。

 四姉妹たちはジェイドが落ち込んではいないか心配してやって来たのだった。

 お茶を淹れてから訪ねると、意外にもジェイドは昏い雰囲気はなく少し落ちついた様子でいた。

 そしてテーブルを囲んで他愛無い会話を楽しむ。

 そこへ部屋の扉が開く音がして全員でそちらに視線を向けた。

「っ!!ルベウスっ!!」

 ジェイドは性懲りもなくやって来たのかと警戒心を顕わにして立ち上がるとペッツの背後に身を隠した。

(?)

 ペッツはそのジェイドの行動を疑問に思い、後ろにいる少女を肩越しに振り返って見つめる。

「ル、ルベウス様!どうされたのですか?」

 なぜかコーアンが少し焦った声で、ジェイドの部屋に訪ねて来たルベウスに訊いた。

 ジェイドは慌てた様子のコーアンを横目に見ると、彼女の頬が少し赤らんでいるように感じた。

「なんだ、あやかしの四姉妹も居たのか…」

 ルベウスが小さな声で残念だなと呟いていたが、ペッツの背後に隠れているジェイドの方に視線を向けた。

「ジェイド、プリンス・デマンドがお呼びだ」
「え?」

 ジェイドは眉根を寄せてペッツの影から顔を覗かせた。

「プリンスは自室でお待ちだ」
「・・・・」

 ルベウスはそれだけ言うと、すぐに去って行った。

 あのデマンドが今更、自分に何の用があるというのだろうか。

 ジェイドは訝しんだ。

 そしてペッツの腕をぎゅっと握り締める。

「ジェイド、大丈夫?」
「……分かんない」

 ペッツが自分の腕を握り締めて不安を隠そうとしている少女を心配したが、呼ばれたとなるとジェイドも行かないわけにはいかない。

 一つ息を吐くと、ペッツを見上げた。

「とりあえず行ってくる。まだここでゆっくりしてくれてていいよ」

 楽しい雰囲気の中、少し柔らかい表情になっていたジェイドだったが、デマンドの部屋に向かおうとする表情は憂えた目を揺らしていて、とても情けなくなっていた。

 ペッツたちの心配を余所にジェイドはそそくさと部屋を出てデマンドの元へと向かって行った。



 部屋を出て隣のデマンドの部屋の扉の前に着くと、ジェイドは不安に早鐘を打つ胸に手を当てて大きく深呼吸をして、心を落ち着かせる。

 そして、扉をノックした。

「失礼致します。……プリンス・デマンド…」

 部屋の中に入ったジェイドは、スカートの裾を広げながら跪いて丁寧に声を掛ける。

 それから顔を上げて、デマンドの方を見る。

「・・・・」

 彼の横には仕えているかのように、ワイズマンがいた。

 ワイズマンから視線を逸らすようにジェイドは顔を俯けた。

 ジェイドは思い出していた。

 夢の中の髑髏のイメージを。

 雰囲気がとても似ている。

 特に鮮明に思うのは、マントから出ている不気味な斑柄の手。

「私は特に用事はない」
「え?」

 ワイズマンのことを怪しんでいると、ジェイドが来たことを確かめたデマンドが言った。

「このワイズマンがお前に話しがあるそうだ」

 ジェイドは目を見張った。

「その間、私は退出している。ゆっくりと話すがいい」

 そう言って、跪くジェイドの横を通り過ぎて部屋から出て行こうとする。

 ジェイドは膝に置いた手を力強く握りしめると顔を上げてデマンドの方を見た。

「私は彼に用事がありません!」
「なんだと?」

 勢いよくジェイドが言い放つと、デマンドは苛ついた声を発した。

「お前はまた私に盾突くと言うのかっ!」

 忌々しそうにジェイドを見下ろし睨みつける。
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