皇翠〜kousui〜
□act.4
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「プリンスが連れて来たその時から、お前を手に入れたいと思っていた」
「っ……あっ!!」
顔を逸らして自分の口づけを拒むジェイドに構わず、ルベウスは隙になっている首元に顔を埋めた。
ジェイドは目を見開いて、身体を強張らせた。
首元に生温いものが触れる。
「いやっ……」
ジェイドは抵抗をするが、押さえつけられた身体は身動きがとれないままだ。
逃げ出すことができない。
そして、首元からゆっくりと肩へと這いだす。
好きじゃない男の人に愛撫されていることへの恐怖から、ジェイドの身体が次第に震え出す。
足掻きながら、彼女の目に涙が溜まる。
(助けて…)
――助けてっ!!デマンドっ!!
ジェイドは心の中で、悲痛に叫んだ。
空しい叫びだったと自分でも思ったが、咄嗟に思い浮かぶのは彼だけだった。
「何をしている!?」
「っ!?」
「ちっ!!」
そんな風に思っているところに新たに声が降って来た。
ジェイドは拒絶で固く瞑っていた目を開き、ルベウスは少女の首元に埋めていた顔を上げて忌々しそうに舌を鳴らした。
「兄貴思いの真面目ヤローのご登場か」
「ルベウスか?」
声を聞いてルベウスだと判断した声の主は、ジェイドたちの方に近づいてきた。
「なっ!?ジェイドっ!!?」
そして、ルベウスに迫られているジェイドの姿を視認して慌てた声をあげる。
「ルベウス、お前!何をしているんだっ!?」
そう言って、ジェイドからルベウスを引き剥がした。
「サ…フィール……?」
ジェイドは声を掛けて来たのがサフィールだと分かると、ほっと安心して全身の力が抜けて、その場にしゃがみ込んでしまう。
「ジェイド!?大丈夫か?」
背後でしゃがみ込んだジェイドに気づいたサフィールが声を掛ける。
「ふっ。今日はここまでか」
その様子を見てルベウスは今回は退こうと不敵の笑みを見せながら暗がりへと去って行った。
サフィールは赤毛の青年を睨みながら去って行ったことを確認すると改めてジェイド方に振り返った。
「何があったんだ?」
「・・・・」
ジェイドはルベウスが顔を埋めていた首元に手を当てて、眉根を寄せて唇を引き締めて黙っている。
その肩はまだ震えていた。
「ジェイド…?……っ!!」
サフィールは心配して肩にその手を添えようとした時、ジェイドが咄嗟にその手を払った。
「あ…、ごめんなさい…」
そこでジェイドは少し正気を取り戻して、やっとサフィールのことを見つめた。
「また、我慢している…」
「・・・・」
首元に手を当てたまま、ジェイドはまた黙った。
「きゃっ!」
サフィールにまた強がっていると言われたジェイドは素直になれず、余計に強がって見せていると急に身体が宙に浮いたので驚いた声をあげた。
強情になっているジェイドを横向きにサフィールが抱き上げた。
「な…、なに?」
「身体に力が入らないんだろう?」
「っ!!」
ジェイドは図星を突かれて、顔を顰めた。
ずっとしゃがみ込んだまま黙っていたのは、ルベウスに迫られた恐怖で身体の震えがまだ止まっておらず、立ち上がる力が入らなかったからだった。
弱みを見せたくなくて虚勢を張っていたのだ。
「ふっ」
「っ!?」
抱き上げられたジェイドがばつが悪い表情を見せているとサフィールが力を抜いて一つ声を漏らして笑った。
「少しは他人を頼ってみろと言っただろう」
ジェイドは目を丸くしたあと、口を尖らせて拗ねて見せた。
まったくと呆れながらサフィールはそのまま、ジェイドの部屋の方へと進み始める。
そして部屋に着くと、ジェイドはベッドに優しく降ろしてもらった。
「どうして?」
「え?」
ジェイドはサフィールに聞いた。
「どうして優しくしてくれるの?」