皇翠〜kousui〜
□act.4
3ページ/8ページ
流れた涙を拭いて、身体を起こすと四人の方に身体を向ける。
「ありがとう…、私は大丈夫よ…」
頼りない眼差しだったがこれがジェイドの彼女たちへの素直な気持ちだった。
「あなたはまた…、そうやって強がるんだから…」
「え?」
ジェイドはペッツの言葉に目を丸くすると、少ししてからくすくすと小さく笑い出した。
四姉妹はどうしたのかと四人で目線を合わしてからまたジェイドへと視線を戻す。
「ジェイド?」
「あ、ごめんなさい。ペッツったら、サフィールと同じこと言うから」
「サフィール様…?」
ペッツは静かに驚いた声を漏らした。
「本当に大丈夫よ。ただ…、頼ってもいいというのなら……あなたたちは私から離れていないで…欲しいの」
憂えた瞳を潤ませながら、ジェイドは少し前にペッツと二人きりの時と同じことを四人に言った。
四人は眉根を寄せてやはりジェイドのことを心配に思いながら、自分たちは姉妹同然だと少女の気持ちに応えたのだった。
Ж
その夜、ジェイドはなんだかゆっくり眠れる気持ちでなかったので、外の空気に触れようと部屋を出て中庭に向かった。
部屋を出たすぐ、隣の部屋に視線を向ける。
そこはデマンドの部屋だった。
「・・・・」
少し見つめたあと、ジェイドは目を伏せながら反対の方向へと歩を進めた。
もう振り向いてはくれない。
両手を胸の前で握ると、そんな悲しい気持ちが込み上げてきた。
「おやおや、どうされたのですか?<夢見>のお姫様、」
「っ!!」
城内に明かりは灯されておらず、廊下は真っ暗で、星明かりだけを頼りにジェイドはそこを進んでいた。
その暗がりから突然に声が湧いてきてジェイドは心底驚いて、そちらを勢いよく振り向いた。
星の灯りの影からゆっくりと不気味に近づいてくる人影。
「ルベウス…?」
やっと人物像がはっきりすると、そこには逆立てた赤い短髪の青年、ルベウスが厭な笑みを浮かべていた。
「お姫様は、プリンスの元へは行かないのですか?」
「なに?嫌味を言いに来たの?」
暗がりの中で一瞬驚いていたが、ルベウスに嫌味を言われたジェイドはキッと睨みつけた。
「まぁ…、そんなところか…」
ルベウスは顎をあげて、ジェイドを見下すように見る。
ジェイドはそんなルベウスに怯むことなく鋭い目を向けている。
「我らが一族の長、プリンス・デマンドに盾突くことを言うから愛想つかされるんだよ」
「・・・・」
ルベウスから顔を逸らすとジェイドは構わず、中庭の方へと歩き始める。
「俺は地球を攻め込むことには賛成だな。我らを排除したんだ。生ぬるい話し合いでうまくいくとは思わないな」
「・・・・」
尚も話し続けるルベウスが自分を無視して横を通り過ぎようとするジェイドの腕を強く掴んで止めた。
「なんなの?」
ジェイドは驚きながらもルベウスの方へと振り返る。
「せっかく、プリンスの元から離れたんだ。この機を逃す手はないだろう」
「なにを言ってるの?」
腕を掴んでそう言うルベウスの表情は怪しさを含んでおり、ジェイドは寒気が背筋を通り過ぎるのを感じた。
恐怖を感じたその瞬間に、ルベウスは掴んだ腕をジェイドの背中に回してそのまま壁へと押し付けた。
「きゃっ!」
勢いよく壁に押し付けられたジェイドは衝撃に声を上げる。
だがすぐに睨みつけて、もう片方の手でルベウスを叩こうとしたが、その腕も壁に縫い付けられて身動きが取れなくなった。
「離してっ!!」
ジェイドは男性の力に抗えずにいたが、その瞳は勁い光を宿して、負けじとルベウスを睨みつけた。
「その瞳だ…」
「!?」
ルベウスはそう言うと顔をジェイドに近づけていく。
「お前はただ囲われていただけの姫じゃないな」
「なんのこと…?」
更に近づいてくる彼の顔からジェイドは顔を逸らして避ける。
「ふっ。強情なことで」
「・・・・」
横に向けた顔を更に必死に逸らして避ける。