皇翠〜kousui〜

□act.4
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 ジェイドは天井を見上げる。

 <未来>を視る力を持っている自分がどう足掻いても運命を変えることはできないのだろうか。

 そこまで思っているとサフィールが戻って来て、ジェイドの座っている前のテーブルに淹れたお茶を置いた。

「いい香り」

 ジェイドは鼻をくすぐるいい香りに心を和ませる。

「無理はするな…」

 サフィールはそう言うと、すぐに部屋を去って行った。

「ありがと…」

 ジェイドは去っていく彼の後ろ姿にそっと呟いた。




Ж   Ж   Ж





 それから少し経ったある日、デマンドが一族を呼び集めた。

 ジェイドもその場に赴いた。

「近く、地球に向かう。我らが悲願を叶える刻が来たのだ」

 一族が集まったことを確認し、デマンドが高々と語り始める。

「地球を攻め入る!」
「駄目よっ!!」

 ジェイドが一歩足を踏み出して声をあげた。

「今、地球を治めているのはN・Q・セレニティでしょう?」

 彼女は最初から他人を疑ったり、退けたりしないと聞いたことがあるジェイドは、まずは話し合いの場を設けることを提案する。

 だが、デマンドは黙ったままでジェイドをただ一瞥するだけだった。

「デマンド?」

 冷ややかなデマンドの瞳にジェイドは眉を垂らす。

 そして、やっと声を掛けてくれたかと思うと――、

「夢見の城の中で安穏と暮らしていた籠の中の姫が、馴れ馴れしい口をきくでない」
「っ!!?」
「兄さんっ!!」

 デマンドが抑揚もつけずに冷淡にジェイドに言い放った。

 その言葉に衝撃を受けているジェイドの横で、サフィールがデマンドを諫めようと声を上げて呼び掛ける。

 だが、デマンドは表情一つ変えないでいる。

「兄さん!」
「いいの。サフィール」

 自分を庇おうとするサフィールのことをジェイドは止めた。

「差し出がましいことを致しました。申し訳ありません。プリンス・デマンド…」

 ジェイドはデマンドの前に跪き目を伏せて改めて言った。

「ジェイド…」

 その様子を見てペッツが小さく名前を紡ぐ。

 それから立ち上がるとジェイドはすぐに踵を返してその場から立ち去って行った。

「ジェイドっ!」

 サフィールが名を叫ぶ。

 あやかしの四姉妹は心配そうな表情を見せ、エスメロードは扇で口元を隠していい気味と言わんばかりににやりと笑みを零し、ルベウスは冷ややかに笑って去って行くジェイドの姿を見ていた。



 ジェイドは耐えられなくなり、勢いであの場を去って行ってしまった。

 また不快に思わせたかもしれない。

 だが、そんなことも構っていられないほど辛い気持ちが自分の心を占めている。

 部屋に戻るとそのままベッドに泣き伏せた。

 はっきりと言われた。

 地球への侵攻はどうあっても賛成できるものではない。

 だが彼はその自分の言葉を全く聞く耳を持ってくれなかった。

 出会ってからずっと優しい言葉を掛けて、自分のことを安心させてくれていたデマンドの心が、一瞬にして遠く離れて行ってしまった。

(デマンド…)

 ジェイドは伏せている布団をぐっと握り締め、愛しい人の優しい眼差しやその表情を思い浮かべた。

 そうして泣き伏せていると肩にそっと誰かの手が触れたのでジェイドははっと顔を上げた。

「ジェイド、大丈夫?」
「ペッツ……、カラベラス、ベルチェ、コーアン…?」

 あやかしの四姉妹がジェイドが去って行った後を追いかけてやって来てくれたのだ。

 ペッツが伏せているジェイドの傍らに座り、少女の頬に手を添える。

「プリンスったらひどいわ」

 カラベラスがジェイドを慰めるように言い出す。

「ジェイドのことを“籠の中の姫”だなんてっ!」
「ジェイドにはどうしようもなかったことなのに…」

 ベルチェとコーアンもデマンドの言葉に不満を漏らす。

 夢見城に囚われていたのは、<夢見>として選ばれたからで、ジェイドが望んだことではなかった。

 だが、彼女は<夢見>の中で色々な情報を得てきていたので、無知という訳ではなかった。

 だと言うのに、世間知らずのように言い放ったあの言葉が四姉妹には納得がいかない。

 ジェイドはそんな風に自分のことを考えてくれている四姉妹の優しさに心が救われる思いで溢れた。
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