皇翠〜kousui〜
□act.2
7ページ/8ページ
「さて…」
「?」
上体を顕わにしているデマンドは徐ろに起き上がると、ベッドの傍らに脱ぎ捨てていた服を着始める。
ジェイドはどうしたのかと身体を起こすと首を傾げながらデマンドのことを見つめる。
デマンドは上着とマントを整えるとジェイドに手を差し伸べた。
ジェイドは彼のその手に自分の手を重ねる。
「君を一族に紹介しよう」
デマンドはそう言いながらジェイドの手を握るとぐっと引き寄せてベッドから降ろした。
「緊張しなくても大丈夫。私の大切な者たちだ」
「……うん」
これまであまり人と関わってこなかったジェイドは、そうは言われても無意識に緊張してしまう。
そんな少女の様子さえもデマンドにとっては愛しく感じる。
デマンドは優しくジェイドの腰に手を添えると、彼女の歩調に合わせて進み始めた。
部屋を出て少し廊下を進んで行くと、その先に広間があった。
そして、そこに7人の人物たちが集まっていた。
「待たせた」
デマンドがその場にいる者たちに声を掛ける。
一同がデマンドの方に視線を向ける。
「皆に言うことがある」
そう言うとデマンドはジェイドを一歩前へと促す。
「彼女はジェイド。<夢見>の姫だ」
紹介を受けて一同がジェイドの方に視線を向けた。
ジェイドは一斉の視線に怯んでしまう。
「私が訪ねていた夢見城が何者かに襲われて落ちてしまった。逃げている彼女を偶然に見つけて助けたのだ」
一同はデマンドの言葉を真剣に聞いている。
ジェイドは、彼が一族の長であることを改めて実感した。
全員がデマンドをトップに見ていて統率が取れている様子が窺える。
「そして、今日から彼女を一族に迎え入れることにした。皆、よろしく頼んだ」
突然のデマンドの話にその場にいた一同がそれぞれの反応を見せていた。
その雰囲気にジェイドは少し臆する。
「大丈夫」
ジェイドが不安で一歩身を引いたことに気づいたデマンドは囁いた。
そして、蒼い短髪の青年を指差した。
彼はデマンドの突然の言葉にも表情を変えずにじっとジェイドを見つめていた。
「あれは私の弟のサフィール」
夢の中で花畑を夢見ていたデマンドと一緒にいた蒼い髪の青年だった。
(彼は、デマンドの弟だったのね)
ジェイドは心の中で思っていた。
デマンドは次に紅い髪の青年の方へと促す。
彼は一瞬驚いてはいたが、今は平静に戻り、ジェイド向けてニヤリと笑みを見せている。
「奴はルベウス」
次はウェーブかかった黄緑色の長髪の女性を紹介された。
彼女は持っている扇を口元に当てて一番驚いていた。
「彼女はエスメロード」
「っ!?」
デマンドに紹介されたエスメロードは強く鋭くジェイドを睨みつけている。
その鋭さにジェイドは臆してしまうが、横にいるデマンドは全く気付かないで次に移った。
次に紹介されたのはあやかしの四姉妹だった。
「一番上からペッツ、カラベラス、ベルチェ、コーアン」
「よろしく」
長女のペッツが姉妹を代表して挨拶をする。
ジェイドは軽く頭を下げた。
「ねぇ、<夢見>ってことは夢で未来を視るのよね?」
ベルチェがジェイドに近寄り、まったりとした口調で尋ねてきた。
「え、えぇ…でも、何でも見れるわけではないんです」
これまで依頼されてその夢を視ようと努力してきたが、実際は上手くいかないことの方が多かった。
それは当たり前のことで、夢見城が確立する前はたまたま見た夢をその人物に、しかも重要人物たちだけという限定された人たちに伝えてきていたのだ。
「それに…本当は夢で視た未来を伝えることは禁忌(タブー)なんです」
「そうなの?」
ベルチェは初耳だったので口元に手を当てながら目を丸くして驚いていた。
「未来は自分で切り開いて行くものだから……」
眉を垂らしながら憂えた瞳を見せてジェイドは<夢見>の本質について語る。
その様子をペッツはじっと見つめながら、少女の歩んできたこれまでの道の重さを感じ取っていた。
「でも、あなたは今まで、その禁忌を破ってきてたんでしょう?」
「はい…」
カラベラスが改めて聞くと、ジェイドは憂えた瞳を一度伏せた。
そして、次に視線を上げて見せたその瞳は勁い眼光を湛えていた。
「私たちは命を削って<夢見>を…<未来>を伝えてきていました」
「「「「!!?」」」」
その意思の勁い瞳と発された言葉の重さにあやかしの四姉妹はひどく驚いた。