皇翠〜kousui〜
□act.2
6ページ/8ページ
「まだ、緊張するか?」
「・・・・」
「大丈夫だ。私が君を護ってやるさ」
「っ!!」
緊張と胸の高鳴りで身を引いていたジェイドだったが、デマンドのその言葉に大きく息を吸いながら驚いた表情を見せた。
「君を我が一族に迎え入れたいと思っている」
君はこれからどうするかとデマンドに尋ねられてジェイドは少し黙っていた。
これまでのことを頭の中で整理していたのだ。
夢見城が襲われてデマンドに出会い、助けてもらうとそのまま一族へと誘われた。
急展開に事が進んできている。
だが、夢見城は崩れ落ちてしまった。
もう自分の帰るところはない。
ジェイドは改めてデマンドの方を見つめると、意を決して言った。
「よろしくお願いします」
「っ!?」
意思のはっきりとした勁い眼差しを見せてデマンドに応えた。
デマンドは、それまでジェイドのことを静かな性格でか弱く、護らなければならない少女かと思っていたのだが、その勁い瞳を見た瞬間に彼女の印象が変わった。
彼女のその凛とした勁さは、デマンドの心を余計に惹きつけた。
そして、そっと手をジェイドの頬に添える。
「美しい……」
「っ!?」
頬に手を差し伸べられたこそばゆさと、掛けられた言葉によってまた胸が高鳴り、ジェイドの頬が熱くなっていく。
恥ずかしさが極限に達して、ジェイドはデマンドの手に自分の手を重ねるとそっと目を瞑った。
デマンドは少女の行動に少し目を見開くと、真剣な眼差しを向けた。
「目を開けて。その瞳をじっくりと見ていたい」
「っ////」
ジェイドは甘い言葉に一瞬だけ目を開いたが、すぐに頭を横に振って目を瞑った。
だが、デマンドはもう片方の手をジェイドの頬に当てると、横に振るう彼女の頭の動きを止める。
ジェイドは驚いて見開いた目をデマンドに向けた。
デマンドはその瞬間にジェイドの頬を覆っていた片方の手を顎の方に動かして、クイっと少し上げる。
「っ!!?」
それは、瞬きほどの出来事だった。
ジェイドの唇にデマンドの唇が重なっている。
顎に添えられていた手は気が付くと後頭に添えられていて、もう片方の手は腰に添えられていた。
優しいが強いその抱擁から、色々なことが一気に起こってついていけていないジェイドは逃れられないでいた。
だが、とても安心する。
そして、幸せだと感じる。
もう考えることを止めたジェイドは、デマンドに身を委ねた。
デマンドもやっとジェイドが自分に添っってきたことを感じると、そのままゆっくりとベッドへと傾けて組み敷いた。
口づけは更に深くなった。
ジェイドは初めてのことであったが心地よさを感じ、デマンドに酔い痴れて深みに嵌っていった。
それからどれくらいの時間が経っただろう。
二人はそのまま、甘い時間をしばらく過ごしていた。
「ここは惑星ネメシスという。太陽系の幻の惑星と言われている」
「幻…?」
同じベッドに並んで寝ながら、2人は会話を始めた。
「そう…軌道が読みづらい惑星なんだ。草花も育ちづらい不毛な星……」
デマンドは天井を見上げながら、少し疎ましそうな口調だった。
夢の中で幼いデマンドが一面の花畑を夢見ていたことをジェイドは思い出した。
「我らの祖先は、地球から追い出されてしまったのだよ」
「・・・・」
ジェイドはデマンドの横顔を見上げる。
夢見城までやって来て語った願い。
いずれ、一族の者が地球に戻る時が来るのかどうか…と。
「<夢見>は叶ったのだろうか?」
「え?」
その会話の流れでデマンドは思い出したかのようにジェイドに改めて自分たちの<未来>のことを聞いた。
ジェイドは不意打ちに一瞬驚いたが、目を伏せて首を振った。
「ごめんなさい……」
「いいんだ。もしも一族に明るい未来があるのなら…と思っただけだから」
「・・・・」
ジェイドは目を伏せたままデマンドの言葉を聞いて罪悪感を抱いた。
本当は視ている。
彼らは地球に赴く。
だが、夢の中のそれは帰るというよりも侵略に近い様子だった。
それが本当になって欲しくなくてジェイドは言えなかった。
言いたくなかった。
<夢見>の力がある自分が言わなかったとしても、この未来が変わらないかもしれない。
そう思いながらも、少しでも運命に抗いたくなった。
彼を本当に愛し始めてしまったから。